現在、オフィス賃貸のほかに注力している分野が、観光ビジネス(ホテルや旅館)、高齢者ビジネス(高齢者施設や介護、医療など)、環境ビジネス(メガソーラーや農業)で、3事業の頭文字から社内では「3K」と呼ばれている。

 特に最初の観光事業は異色だ。たとえば、ヒューリックが初めて手がけたホテルが東京・浅草にある「ザ・ゲートホテル雷門」(2012年8月開業)。当地も、もともと旧富士銀行の店舗があった場所だが、雷門支店が3行統合で閉鎖対象店舗になったことから建て替え用途を検討。浅草は観光地でもあるためホテル用途を選択したのだが、自社でホテル運営ノウハウを積むため、直営ホテルとしている。

 前後して2010年には有楽町にあった「ニュートーキヨービル」を5年後に取得する契約を締結。さらに2012年、同ビルに隣接したビルも取得し、購入した2つの土地を1つのホテルで使用するため、容積率も緩和されるなどのメリットがあった。当地でも今秋、自社運営ホテルが開業予定だが、浅草も有楽町も宿泊特化型で、宴会場や大規模レストランなどを付帯せず、採算性の高い宿泊ビジネスに絞ったホテルにしているのが特色だ。

 今後、労働人口の減少や在宅勤務なども増えていくため、将来的にはオフィス賃貸市場は供給過剰になっていく公算が高く、ヒューリックでは前述の3K事業の比率を高めていくという。

 ただ、もちろん好採算が見込めるエリアでは引き続き、旺盛な物件取得にも動いている。昨年も銀座6丁目、あるいは新宿3丁目での開発用地取得を発表したほか、来秋竣工予定で渋谷パルコ跡地再開発地に建つ予定の高層ビルでは、上層階の事務所床をパルコから取得した。

 ただ、こうした積極投資もあって有利子負債は9000億円を超えており、2800億円の企業規模からすれば将来、金利上昇局面に反転した場合のことも考えておかなければならない。そこでグループのREIT(不動産投資信託)会社へ物件を売却して本体のバランスシートを軽くしたり、あるいは公募ハイブリッド債(公募劣後特約付き社債)の発行を予定するなど、守りの手も打ってきてはいる。

 業績も好調なだけに、中途採用組の多いヒューリックでは、社員の平均年齢が40.3歳で社員の平均年収が1418万円(「会社四季報」ベース)と厚遇で、福利厚生面や働きやすい職場環境づくりにも熱心らしい。

 東京五輪後の不動産市場や金利動向は不透明で、不動産各社はそれぞれ得意な分野で勝負していく色彩が強まっていくことも予想される。

 ちなみに、ヒューリックは旧富士銀行系ということもあって芙蓉グループと近いため、芙蓉系の東京建物がヒューリックの第3位株主(持ち株は6.3%)だ。東京建物は安田財閥の創始者が1896年に設立した、日本最古の総合不動産会社でもある。同社の2017年12月期の売上高見込みは2600億円、営業利益420億円、経常利益350億円、純利益220億円と、すでにヒューリックのほうがすべての指標で上回る。

 東京建物は、どちらかといえば「ブリリア」ブランドでの分譲マンション事業のイメージが強いため、ヒューリックとの棲み分けも成立する。将来は、同じ12月期決算ということもあり、両社で連携や補完するようなこともあり得るかもしれない。ともあれ、ヒューリックの将来戦略に注目したい。