>>717(続き)
イルカを捕っている漁師がイルカを「かわいそうだと思わない」ということは
ありません。イルカは殺されるときにボロボロ涙を流します。喉を切ると、目
をまん丸に見開いて暴れます。私はイルカを殺すたびに「かわいそう」と思っ
てきました。そして不正を正そうというただ一人での戦いの中で私は「もう、
イルカを殺せない」と感じました。

私は今、「イルカを殺して得る利益よりも、イルカを捕らないで得る利益のほ
うがずっと大きい」と考えています。イルカ・ウォッチングが地域の経済に及ぼ
す影響は大きいものです。イルカ猟だけなら、潤うのは漁師だけですが、イルカ・
ウォッチングなら。ホテル、ペンション、交通関係者、みやげ物や、漁協も潤う
のです。

私はイルカ・ウォッチングの利益を一人占めすることは、まったく考えていま
せん。まず自分が成功して、イルカ・ウォッチングでやっていけることを証明
し、それを見てほかの漁師がやってくれればうれしいですし、またほかの漁師
と一緒いやっていければうれしいと思います。

目下の私の夢は、子供のころ、丘の上にみかん畑でみかんを食べながらイルカ
猟を研究し、イルカ猟を覚えた、その同じ場所に富戸の漁師たちがイルカ・
ウォッチングに出て行くのを同じようにみかんを食べながら見ることです。

皆さんは、イルカが追い込まれたときに何をするか知っていますか。私は子供
のころから、イルカ猟があった日の夜に、湾に追い込まれて囲われているイル
カをよく見に行きました。いるかは親子が連れ立って囲いの中を泳いでいまし
たが、親イルカが子供のイルカを守っていました。そしてメスのイルカとオス
のイルカが月明かりの中で交尾しているのをよく目にしました。

わたしはなぜこんなときにイルカたちは交尾するのだろうかと考えました。
そして「イルカは子孫を残そうとしているのだ」と思い当たりました。もしメ
スイルカが逃げとおすことができたら、メスは子供を生んで、子孫を残すこと
ができるのです。だから、イルカたちは、追い込まれた囲いの中で交尾をする
のだと私は思います。

私は、「もう、イルカを殺せない」と考えています。しかし、もし違反事件が
おきたときに、水産庁が私を無視せずに、不正を正そうという私の意見を聞い
ていたら、私は今とは違う別の道を歩んでいたかもしれません。その点、私が
今日ここにあるのは水産庁のおかげです。もちろん、これは水産庁への私の皮
肉です(聴衆の笑い)