ラトビア

かつてエースとして活躍したボブスレーの代表選手が怪我で引退を余儀なくされ、失意から酒浸りの日々を送る。
そこへ彼を幼い頃から応援してきた小さな町工場の社長が声をかけた。
「今度は君が次の世代のために良いソリを作ってみないか」
自暴自棄だった選手は一念発起し、昔の情熱を取り戻して第二の人生に打ち込んだ。

お金も人出もない中、経験と工夫、そして熱意を注いだソリはいつしか世界最高峰の品質を誇るようになり、
今でも従業員わずか6名の小さな町工場が世界中のトップ選手たちから愛され続けている。


日本

大都市東京。官僚と企業が集まって「何か我々をアピールして金と自慢になるものを作ろう」と画策した。
「誰も興味のないマイナー競技なら競争相手が少ないだろう」と目をつけ、ボブスレーのソリでも作って名産物化することにした。
もちろんボブスレーなど見たことも作ったこともないため一応見学してみたが、「こんなもんか。これなら簡単に作れる」と安堵する。
この国の人々はみな国威発揚が大好きだ。
首相が音頭を取り、名だたる大企業が参列し、莫大な税金を投入し、メディアタイアップも万全で一大国家プロジェクトとして進めていった。

しかし、ソリ作りの知識も経験も技術もない彼らに良いものを作ることはできず、五輪の安全基準を満たすことすらできなかった。
頼みの日本代表選手たちすら日本製ソリを拒否し、ラトビア製のソリを使うという。
そこで、貧しい弱小国のジャマイカに日本製ソリを無償で提供して使わせることにした。
飛行機代の捻出にすら苦労する後進国の貧民たちのことだ。性能に劣る粗悪品でもタダとなれば喜んで飛びつくことだろう。

ところが、ジャマイカ選手たちは傲慢にも日本製ソリを嫌い、本番ではラトビア製のものを使いたいと要求してきた。
「日本製のソリは出場基準を満たしておらず、結果以前に失格になってしまう。ラトビア製なら問題ないし、速くて安全」などと主張する。
なんと常識知らずな黒人たちであろうか。無知蒙昧な土人に先進国との契約という概念は理解できなかったようだ。

だが、日本の勝ちだ。こんなときのために契約書に違約規定を忍ばせておいたのだ。
いくら性能が悪くとも、出場基準を満たさなくとも、日本製の宣伝に協力しなければ彼らは3億円の違約金を払わなければならない。
彼らの年収のおよそ200倍の大金だ。小国の労働者風情が大国日本に恥をかかせた報いを、たっぷりと思い知らせてあげようではないか。