>>1の続き

閉店時刻を過ぎて客が出払った頃、複雑な気持ちで店の扉を開けた。

店員「もう閉店なんですよー」

―客じゃないんです。週プレの取材で…。

店員「じゃあ、社長に聞いて。社長、社長〜!」

店の奥に目をやると、レジ締めをしていた男性がこちらを凝視している。体は“くの字”に曲がり、かなりの老齢と思われる“好好爺”然としたその風貌。
常連客にはおなじみのあの“お爺ちゃん店員”と思いきや、この方が社長だったのか…。

社長「なんでしょ?」

―ツイッターにこちらの店が立ち退きになるという情報が出ていますが…。

社長「ツイッター…何、それ?」

―インターネット上で、この店が閉店になるって情報が流されてまして…。本当ですか?

社長「デマですよ。閉店しないし、そんな予定もない」
店員「今日、何人かお客さんから同じことを聞かれましたよ…」
社長「なんでウチが閉店しなきゃなんないの?」

―なんでも、『再開発』の影響でと。

社長「あぁ、公的なもんじゃなく不動産屋のね。確かにそんな話は前から聞いてますよ。
5年前、この区画のオーナーがその不動産屋に変わって、家賃を上げたの。
前の大家は坪1万5千円で安くしてくれてたんだけど、『相場並みにする』って5割は上がったかな」

―それで周辺の店舗も立ち退かざるをえなくなったと。

社長「ウチは払えてるけど、家賃の値上げが辛かったらしい。不動産屋もこの辺りの土地を安く買ったんでしょうね。
で、古い店に『出て行ってくれ』と条件を出して、立ち退かせれば高く売れるわけでしょ? 儲けは大変なモノ。よくある不動産商売ですよ」

―でも、『キッチン南海』さんは立ち退かないんですね?

社長「ウチは何億積まれてもやめるつもりはありません」

『キッチン南海』の立ち退きは丸っきりデマ! それが事の真相だった。

じゃあ、【悲報】の発信者はなぜ、そんな情報を流したのだろう。
神保町で中古書店を営む“発信者の知人”の男性によると、
「店から直接知れた情報じゃなく、『飲み屋で他人から聞いた話を投稿してしまった』と言っていました」とのこと。

この時代、デマや誤報はSNS利用者の間で事実として伝わり、大騒動を扇動しかねない。発信する人も受け取る人も、取り扱いには注意すべし!

(取材・文/興山英雄)