開発秘話/ヤマハ発、初の医療機器 たった1人の熱意が7年かけ結実するまで

ヤマハ発動機が同社で初めての医療分野製品として開発した細胞ハンドリング装置「セルハンドラー」は、表面実装機で培ったロボット技術と開発者の熱意により製品化に至った。高度な技術だけでなく、地道な努力と自由な研究を認めるヤマハ発の風土が成果につなげた。新規分野の開拓に大事な要素といえそうだ。(石橋弘彰)

【提案通らず】


セルハンドラーの外観

「1人でも開発をしたい」。2010年、伊藤三郎新事業開発本部事業企画グループ主務は細胞ハンドリング装置の開発を提案したが通らず、当時の部長に直談判した。そこからの地道な取り組みが7年後に実を結んだ。

セルハンドラーは表面実装機や産業用ロボットを扱うIM事業部が10年に新規事業を募ったコンテストが開発の契機だ。伊藤主務は当時ブームになっていたiPS細胞など再生医療に着目。「小児がんは進行が早く薬の副作用も大きい。困っている人を何とかしたい」という思いを抱き、医療機器を提案しようと決めた。

調査してみると、再生医療の分野は手作業が多く、コストがかかることが悩みだとわかった。特に細胞培養は一人で数多くの細胞を拾って培養用の試験管に移す面倒な作業だ。「表面実装機の技術が使えるし新規の製品になる」(伊藤主務)と狙いを絞りコンテストに応募した。

だが、ヤマハ発にとって医療分野は全く経験がない。提案は通らなかったが、伊藤主務は倉庫を借りて開発を行うことにした。「そうした自由さはIM事業部にはあった」(同)という。

事業として本格化するのは卓上機械として試作を完成した12年から。細胞を画像で認識して一つずつ取り出し、試験管に移すという作業に必要な要素技術を開発。顕微鏡、2軸テーブル、細胞を吸い出すポンプなどを組み合わせた。

【チーム始動】


セルハンドラーをセッティング

試作機は米国で性能評価されることになり、スピードや完全自動化が課題に挙がった。伊藤主務が会社と再交渉した末、メカやソフトの技術者などを集めたチームが始動。「日々生まれる課題をつぶし込みながら試行錯誤し、細胞を取り出すノズルの形状や細胞を入れる微細な試験管も手探りで開発した」(同)と振り返る。

【AI連動に意欲】

セルハンドラーは手作業で8時間かかっていた細胞の移動作業を30分以内で行える。細胞の撮像も行えて作業効率が飛躍的に高まる。だが、まだ課題はあるという。引地裕一新事業開発本部MDB開発部部長は「どの細胞を取り出すか選ぶ作業を人工知能(AI)で自動化したい」と最新技術の採用に意欲的だ。今は研究用途向けの提供だが、使い勝手や性能を高めつつ、より広い用途に展開したいと意気込む。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00458479

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