高校や大学の教員らで構成する民間団体「高大連携歴史教育研究会」(会長・油井大三郎東大名誉教授)が、高校歴史教科書から「坂本龍馬」を削除する一方、論争がある「従軍慰安婦」「南京大虐殺」などを精選した用語案をめぐり、研究者らから歴史教育への影響に加え、日本史と世界史の間での用語の不統一を疑問視する声が出ている。日本史で自虐的傾向があるが、用語の選定作業グループが世界史と異なるため相違が生じた可能性もある。

 「今後の国際社会を生きていく子供たちに、国内外の歴史上の著名な人物を教えなくてもいいのか」。1月下旬に行われた自民党有志の会合。議員からは歴史用語を大幅に削減した高大連携歴史教育研究会の精選案に異論が相次いだ。

 この団体のホームページによると、精選案では「教科書本文に掲載し、入試で必須暗記事項として扱う」基礎用語を掲載。原則として、ほとんどの教科書に掲載されている用語や歴史の大きな転換、時代の基本的特徴を説明する概念用語などを選定するとしているが、個別用語の選定基準は一部を除いて明らかにしていない。

 日本軍による「強制連行」の誤解を与えかねない戦後の造語である「従軍慰安婦」や日本軍の残虐性をことさら強調した「南京大虐殺」といった精選案の用語は、現行の教科書でも少数表記ながら盛り込まれているが、研究者からは日本史と世界史での用語の不統一が指摘されている。

 「南京大虐殺」は世界史では「南京事件」と表記。さらに、昭和6年の満州事変から先の大戦の終結までを一体的に捉える「日中15年戦争」という日本史の用語も、世界史では「日中戦争」と表記されている。

 時代の基本的特徴を理解する上で必要とされる用語の欠落もある。日本史の精選案の単元「大日本帝国と世界」では、ロシア革命後の共産主義の脅威の広がりや米騒動の背景を理解する文脈でも出てくる「シベリア出兵」が入っていない。

 今月14日に公表された高校学習指導要領改定案に合わせ、林芳正文部科学相はこの精選案を念頭に「生徒が歴史を豊かに学べるよう、歴史用語を削減する規定は設けていない」との談話を発表。改定案の地理歴史科では一面的な見解を十分配慮なく取り上げるなど偏った指導をしないよう求める規定を明記している。

 人名などを大幅に削減した精選案について、日本近現代政治史が専門で高校日本史教科書の執筆経験もある伊藤隆東大名誉教授は「歴史を考える上で人物不在の歴史はありえない」と指摘。「抽象的な概念用語も多く分かりづらい。『戦時性暴力』という用語は日本軍の加害性を強調したいのだろうが、旧ソ連軍による満州での日本人婦女子への暴力は無視できないはず。日本近代史では日本を悪玉にする特定史観の印象を受ける」と話している。

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