寮の浴室から発見された不審な物体。日本で働く若い中国人女性技能実習生たちは、
会社からも仲介機関からも日本社会からも助けを得られず、困り果てていた

岐阜県の会社で研修生として働く中国人女性6人は7日夜、入浴後に脱衣所で服を着ていた際、
寮の浴室の脱衣場で不審な物体に気が付いたという。USB ACアダプターの形をしているが、よく見ると小さな穴が空いている。
これを見た1人の女性実習生はぴんと来た。これは監視カメラに違いない、と。分解してみると、中からレンズが出てきたではないか。

宿舎は3階建てで、6人は3階に住んでいた。2階には日本人男性社員3人が住んでいる。
男女共同の浴室が1階にあり、中国人研修生によると「午後8時に仕事が終わるとまず私たちが入浴し、
終わり次第男子社員に声をかける」というシステムだったという。

6人は翌日の午前8時の始業時間に、彼女たちの生活面の面倒を見ている工場長代理に事情を説明し、警察への通報を求めた。
しかし工場長代理は「今は仕事の時間だから」と取り合わなかったという。そこで日本の仲介組織に助けを求めたが、「会社側と同じような態度を取られた」という。

そこで6人は、中国版ツイッターを通じて長年日本で暮らす中国出身で日本に帰化した李小牧氏と連絡を取った。
李氏は9日に現地を訪れ、大垣警察署に通報したが、警察署からは「建造物の所有者、すなわち会社からの被害届がなければ立件できない」と回答されたという。
日本には盗撮を罰する法律がない。この場合ならば「建造物侵入罪」で被害届を受理することになるが、
それには寮の所有者である企業が届け出る必要があるのだという。盗撮被害を受けたのは6人の女性だが、彼女たちには被害届を出す権利がないというのだ。

警察署を離れた後、李小牧氏は彼女たちの話を聞いた。そこで知ったのは、あまりにも過酷な生活だった。
例えば、寮の水道の蛇口には布が巻き付けてある。理由を聞くと、水に泥が混じっているからだという。
その布をほどいてみると、確かにそのとおり。中には土がたまっていた。泥混じりの水が流れてくる蛇口の、布でこした水を飲んでいるのだ。

浴室は真冬でも十分なお湯が出ない。湯沸かし器が古いからだろうか、お湯は出たり出なかったり。
彼女たちは冬の寒い時期には週1回程度しかシャワーを浴びないという。一方、部屋には冷房もなく、真夏には倒れそうな暑さになる。

煮炊きには井戸水を使うというが、その水には虫が浮かんでいるのだとか。
日本人従業員はミネラルウォーターを買って飲料水にしているが、給与が日本人の半分という彼女たちは水を買うことすらためらわれる。
劣悪な待遇である。

これが世界に名だたる先進国・日本の姿なのだろうか。外国からやって来た若い女性をこれほど
過酷な環境で働かせるばかりか、不安な事件が起きても誰一人親身に寄り添おうとはしない。

昨今、国内外から外国人技能実習制度に対する強い批判が聞かれるようになった。日本の技術を学ぶとは建て前だけ。
体のいい奴隷ではないか、と。思うに監視カメラは本質的な問題ではない。技能実習生たちが働く日本企業、派遣した仲介機関、
そして現地の日本社会、それら全てが彼女たちを本当の意味で受け入れていなかったのではないか。彼女たちのことを考えていなかったのではないか。

家畜のような扱いを受ける女性たち。人権という言葉はどこに消えたのだろうか。

13日になって事態はようやく動きを見せた。李小牧氏私がSNSを通じてこの事件のことを訴えたところ、中国メディアの澎湃新聞が取材し記事にしたのだ。

これまで事件を無視していた会社、仲介機関、駐名古屋中国総領事館は一気に態度を変えた。
女性たちに会おうとしなかった社長は、すぐに顔を見せ、会社はすぐさま警察に被害届を提出した(そして「建造物侵入罪」として受理された)。

だが、事件の発覚から間もなく1週間がたとうとしている。彼らが態度を変えたのは女性たちのことを思ってのことだろうか。
それとも報道によって大騒ぎになると予感し、自分たちの身を守るために重い腰を上げたのだろうか。