ヒトの精子、つまり、成人男性の小さき生殖細胞は、有性生殖には不可欠だ。精子には頭部、中間部、尾部があって、半透明のオタマジャクシのような形をしている。そのしっぽを鞭のように動かして、受精のために卵子に向かって泳ぐ。男性は1秒間に1500個の精子を作れ、1度の射精に含まれる数は2億5千万を超えることもある。

 生殖については、このようにさまざまなことがわかっているにもかかわらず、個々の細胞や組織の構造がすべて詳細に研究されてきたわけではない。

 しかし、低温電子顕微鏡断層撮影法(低温ET)という革新的なイメージング技術のおかげで、新たな事実が明らかになった。細胞を拡大して立体的に撮影できるようになったこの技術を精子に応用したところ、しっぽの先端部分に左巻きのらせん構造があることがはじめて明らかになり、2月9日付けの科学誌「Scientific Reports」で発表された。

 この発見によって、泳ぐのが上手な精子と下手な精子がいる理由が解き明かされたり、不妊症や避妊の新薬が開発できたりするかもしれない。

「原生動物に関しては、研究されて多くのことがわかっていますが、ヒトの細胞に関しては、あまりわかっていないのです」と、今回の論文の主な著者であるスウェーデン、イエーテボリ大学の博士課程の学生ダビデ・ザベオ氏は言う。

「そのままの状態で観察できる最高の撮影法」

 低温電子断層撮影法とは、電子顕微鏡をCTスキャンのように使う方法だ。単一の細胞、組織、器官など、急速に冷凍した生体サンプルを薄く切り、ナノメートルサイズの微細な物体を電子顕微鏡で撮影して、3次元的な画像を再構成する。サンプルを冷凍することで、乾燥せず、できるだけ自然に近い状態で調査できる点が強みだ。

「基本的には、取り出したタンパク質の特徴を観察するだけです。ただし、今までの他の技術と異なり、撮影のためにいろいろと手を加えられていない画像を撮れます」と、論文の共著者である米コロラド大学ボルダー校のギャリー・モーガン氏は言う。「生きていたとき、そのままの状態で観察できる最高の撮影法です」

 実際には、通常の細胞だと薄切りにしないと、低温ETには厚すぎる。しかし、精子が泳ぐのに使う鞭毛(べんもう)、つまりしっぽは、先が細く十分に薄いため、この方法を応用できた。すると、鞭毛のおよそ10分の1ほどの終末部で、内側の壁に張りつく左巻きのらせん状の構造が見つかった。

 今のところ、なぜこの構造をもつのかはわかっていないが、著者たちの考えでは、しっぽが伸びたり縮んだりするのを防ぐ役割があるのかもしれない。また、卵子へ向かって泳ぐためのエネルギーを供給するのに役立つのかもしれないという。

 ちなみに、2012年に初めて精子の3D追跡を行ったときの結果では、ほとんどはまっすぐ進むが、中にはらせん軌道を描いて泳ぎ「動きすぎ」な精子があることがわかっている。

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