第十一條 覇道論

 此は表面王道を行ふと言ふ看板を掲げて、実は其の名の蔭に隠れて人欲
を行ひ、己一人の意志を以つて天下万世を司配し、以つて平治を得んとす
る者である。
 覇道の見に従へば政治は実際である。実際の世の中は欲の世の中である。
人間には欲がある。目は美を視ん事を欲し、耳は珍を聴かん事を欲し、鼻
は香を嗅がん事を欲し、口は味を食はん事を欲し、舌は言はん事を欲し、
糞便垢汗は之を離脱せん事を欲し、性欲あり、心は満足を欲し、意は実現
せん事を欲し、情は快適を欲し、智は弁ぜん事を欲し、身体は安佚を欲し
己は拡大せん事を欲し、種及び個体は其の維持存続を欲し、就中食欲を性