中東でサウジアラビアを上回る勢力圏を手に入れた宿敵イランに危機感を募らせる皇太子。だが、制裁再開は逆にイランを刺激するという声も

サウジアラビアの「次期国王」と目されるムハンマド皇太子は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、中東でイランとの戦争が起こるのを避けるためにはイランに対する経済制裁や政治的圧力を強めるよう国際社会に訴えた。

中東を制するのはサウジではなくイラン

3月に訪米し、ホワイトハウスでドナルド・トランプ米大統領とも会談したムハンマドは、会う人ごとに、イランに再度制裁を課すよう直訴して回った。トランプは3月22日にH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任し、その後任に、イランへの強硬姿勢で知られるジョン・ボルトン元国連大使を指名したばかり。欧米など6カ国がイランと結んだ核合意を破棄し、対イラン制裁を復活させることもやりかねないと目される人物だ。

ワシントンでは、核合意の維持こそ大事と信じる米政府関係者が、ムハンマドに同調する対イラン強硬派によって劣勢に追い込まれている、と関係筋は言う。

「ボルトンはイランと北朝鮮両方に対する強硬路線を支持するタカ派だ」と、米シートンホール大学の外交国際関係大学院准教授、マーチン・エドワーズは本誌に語った。「冷静な分析を好むマクマスターと対照的に、ボルトンはトランプの最悪の直感を抑えるどころか、火に油を注ぎかねない」

■トランプ政権はサウジの味方するか

トランプが新国務長官に同じく対イラン強硬派のマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官を指名したことも、核合意にとって不吉だ。

トランプが制裁再開の是非を判断する次回期限は5月12日。再開すれば事実上の核合意破棄につながるが、トランプはそうするつもりだ、というのが専門家のほぼ一致した見方だ。

核合意が破棄されれば中東が惨劇の舞台になる恐れがある、と指摘する専門家もいる。イランは中東で、レバノンのイスラム教シーア派武装勢力「ヒズボラ」やイエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」など、多数の反米勢力を支援しているからだ。

核合意を支持する人々は、もし破棄されればイランは核兵器開発を再開するし、制裁再開を口実にイランは強硬姿勢に転じるだろう、と言う。

「ムハンマドがイランの影響力拡大を懸念するのはもっともだ。イラクからシリア、イエメン、レバノンに至るまで、イランはすでに中東各地でサウジアラビアを上回る勢力圏を手にした」と、米シンクタンク・ブルッキングス研究所の中東専門家、クリス・メセロールは本誌に語る。

「だがその解決策は、核合意の破棄でもなければ、新たな制裁を科すことでもない。制裁再開はイランをさらに刺激するだけだ」

だがムハンマドの見方はそれとは逆だ。制裁には中東全体でイランの影響力拡大を阻止する効果がある、と主張している。彼はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、もし国際社会が制裁でイランを封じ込めなければ、今後10〜15年以内に中東でイランと戦争になるだろう、と「予言」した。(翻訳:河原里香)

4/2(月) 18:02
ニューズウィーク日本版
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180402-00010004-newsweek-int