海外では日本文化の代表のように捉えられているのに、国内ではあまり研究がなされてこなかったテーマについて、大学で学術的に研究・教育する態勢が整ってきた。京都では和食、三重では忍者についての学会が相次いで誕生。既存の枠にとらわれない「新しい学問」の構築を目指す。

 「和食文化を守るために、学問の縦割りを排し専門や大学の枠を超えて研究に取り組む必要がある」

 2月中旬、京都市で開かれた「和食文化学会」の設立総会。学会長を務める京都府立大(京都市)の佐藤洋一郎特任教授はそう強調した。2013年に和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたのは、「消滅危機にあることの裏返し」と指摘する。

 和食を文化として学問的に扱う初の学会で、総会には国内外の研究者や料理人など約200人が出席した。続いて「和食文化の体験」と称したプログラムなども実施。関東、関西のコシヒカリのそれぞれの起源とされるコメの試食会が開かれ、参加者らが食感やにおいの違いを論評した。

 総会に参加したイタリア出身の研究者、カパッソ・カロリーナさん(49)は「今まで日本に和食の学会がなかったのが不思議」と話す。イタリアでは1980年代にファストフードに対抗して、伝統料理や食材を守る「スローフード運動」が起こった。自国の食文化を学術的に研究する取り組みは海外では盛んで、「学会設立を機に食糧不足といった世界的な問題への関心も高まれば」と期待する。

 関西の大学を中心に近年、食にまつわる研究・教育体制の構築が進む。立命館大学は今年4月、「食マネジメント学部」を滋賀県草津市に立ち上げた。文化、経営、科学の3領域から「食」に取り組み、国内外の課題解決に挑む人材の育成を目指す。朝倉敏夫学部長は「これまでも個人の研究者はいたが、組織はなかった。食についての総合的な学問をつくりたい」と意気込む。

 三重県では今年2月、三重大(津市)が中心となり「国際忍者学会」が発足した。「本場」の一つ、伊賀市で行われた設立大会には研究者ら約200人が参加した。運営委員で三重大国際忍者研究センター副センター長の山田雄司教授は「忍という字は日本人の忍耐強さを表している。研究は日本人の精神性などを再確認することにつながる」と意義を語る。

 山田教授によると、これまでは小説や映画、アニメなどで描かれるイメージが先行し、歴史的史料に基づいた研究はあまりなされていなかったという。訪日外国人に人気が高いことから観光につなげる取り組みはあるが、「一過性にしないためには、史実をもとに忍者ゆかりの地を巡るルートの整備などストーリー性も重要」(同教授)。

 研究で得た知識を地域産業に生かすことも目指す。忍者が携帯食とした薬草や茶を商品化するなどの構想もある。学会は研究者のほか、スポーツの専門家や観光業者などの参加も認めるという。

 輸出は増えているものの、国内の出荷量はピーク時の3分の1と低迷する日本酒。新潟大(新潟市)は「日本酒学」の創設に力を入れる。17年5月に県、県酒造組合と連携協定を締結し、今年4月には日本酒学センターを開設した。

 講座では醸造の科学や流通に加え、日本酒をたしなむマナーなど文化的な側面まで幅広く扱う。高橋姿学長は「酒造りだけでなく、消費者に届くまでの全体像を理解できる。日本酒を身近に感じることで、大切にしてもらうきっかけになれば」と狙いを話す。

 国内シェアは8%、都道府県で第3位の出荷量を誇る新潟県でも日本酒離れが進みつつある。高橋学長は「日本酒学を構築することで、後継者の育成にもつなげたい」としている。

■海外の日本研究 環境整備進まず

 訪日外国人が急増し、日本文化への関心が高まる一方で、海外での日本研究は環境整備が進んでいないのが実情だ。

 一般的に学術機関が他国の文化や歴史を研究する場合、研究対象となる国からの支援がある場合が多い。他国での自国研究を国を挙げて支援する中国や韓国に比べ、日本は遅れが目立つといい、早稲田大の和田敦彦教授は「日本研究は稼げないと思われている。時間をかけて研究できるよう、長期的な支援が必要だ」と話す。

 海外の日本語図書について研究する和田教授によると、文献の電子化が進まないことも研究にブレーキを掛ける一因となっているようだ。

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2018/4/4 2:38
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28938630T00C18A4TCN000/