【パリ=三井美奈】シリアとイラクでイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の敗走が続く中、欧州各国はISに加わった戦闘員の妻子の扱いに頭を悩ませている。渡航者数が欧州最多のフランスでは妻子の帰国受け入れを求める声が高まるが、「テロ予備軍」となりかねないため、政府は対応に慎重だ。

 ■「仏で裁判」訴え

 携帯電話には、シリアから送られた写真が何十枚も残っていた。母親が幼児を抱いて幸せそうにほほえむ姿が写っている。

 「私の姉です。シリアで拘束されているかもしれない。子供たちだけでも取り戻したい」

 団体職員、アミヌ・エルバイさん(22)は訴えた。仏北部ルーベのアルジェリア系移民の家庭出身。1つ年上の姉は2014年に突然、シリアに渡航し、現地でフランス人IS戦闘員と結婚した。生まれた息子は2歳、娘は1歳になるという。

 エルバイさんは昨年秋、マクロン大統領に「拘束されたISのフランス人はフランスで裁判をしてほしい」と訴える書簡を送った。連携する約100家族もそれぞれ同様の手紙を政府に送ったが、「全く返事がない」という。

 ■「子供に罪ない」

 欧州連合(EU)圏内からは約5千人がシリアやイラクに渡航し、過激派に加わった。仏政府によると、14年以降のフランス人渡航者は約1700人で、約700人が今も現地にとどまるとみられている。女性は3分の1を占める。また、現地には仏国籍を持つ子供が約500人おり、半分は現地生まれという。

 イラクからは、帰国を望む声が聞こえてくる。クルド人勢力に拘束された女性は弁護人を通じて1月、「捜査に応じるので帰国させてほしい。子供たちに罪はない」とノートに走り書きした大統領あての書簡を公開。仏テレビのインタビューに応じた女性もいる。

 仏政府は、フランス人戦闘員は現地の司法当局に委ねるべきだとの立場。一方、妻や子供への対応は「ケース・バイ・ケース」(マクロン大統領)で決める方針だ。人権団体は「拷問の危険があり、公平な裁判が困難」として、男女問わず帰国させて裁判にかけるべきだと訴える。だが、仏国内では「帰国テロ」への不安が強く、世論調査で82%が「仏政府は介入せず、現地の司法に委ねよ」と答え、拘束者の帰国に反対した。

 ■12歳が人質銃殺

 仏政府は2月、68人の子供がすでに帰国したと発表した。4分の3は8歳未満。祖父母や親戚に引き取られ、精神科医の「脱過激化」支援を受けている。

 ISは9歳から男児を戦闘員として養成。インターネットで公開した動画には12歳のフランス人少年が人質を撃ち殺す様子が写っており、子供も犯罪と無縁ではない。弁護士のサイア・マクトゥフ氏は「フランスでは18歳未満の場合、テロで有罪となっても刑罰は成人よりはるかに軽い。重要なのは、司法の監視期間が終わった後、テロ思想の中で育った彼らをどう社会参加させるかだ」と話す。

 エルバイさんの姉は、高校時代の友人の影響で過激思想に傾倒し、「市場に行く」と言い残して家出した。2年前に夫がイラクで戦死して以降、SNSの連絡が取れなくなった。エルバイさんは「姉はテロ加担の罪を償うべきだが、子供たちは救いたい。居場所のない子供が過激思想に引き戻されれば、新たなテロリストを生む」と訴える。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180404-00000054-san-eurp