名古屋大学大学院理学研究科の 田中 実 教授、西村 俊哉 助教の研究グループは、国立遺伝学研究所の 酒井 則良 准教授のグループ及び University of Massachusetts Boston の Kellee Siegfried 博士との共同研究により、身体をメスにしたがる特質の細胞がいることを、メダカ注 1 を利用した実験において見出しました。

哺乳類もメダカも Y 染色体を持っていると身体はオスになります。ところが、「生殖細胞注 2」は身体が Y 染色体を持っていようがいまいが、もともと、身体をメスにしたがる働きを持っているだけでなく、この特質がないとメダカはメスにはなれないこともわかりました。「生殖細胞」は精子と卵(配偶子)の元となる細胞、すなわち、子孫を作り出すのに必須の細胞なのです。生殖細胞は、精子と卵のどちらにもなれる能力を持っています。興味深いことに、このメスにさせる特質は、生殖細胞が精子もしくは卵のどちらになるのかが決まる前の状態から発揮され、また「精子になる」と決まった生殖細胞にもこの特質があることがわかりました。

身体をメスにしたがる細胞の特質がわかったことにより、今後、身体の性が決まる

仕組みの理解が一層深まると期待されます。

【成果の意義】

メダカがメスになるためには、もともと身体をメスにするという生殖細胞の持っている特質の結果であることが明らかになりました。卵巣と精巣は同じ組織からできてきます。この共通の組織から、メスにおいて卵巣ができる過程、あるいはオスにおいて精巣ができる過程を比較してみると、メスでは卵巣が形成された直後に生殖細胞の数が増加して卵を作り始めるのに対し、オスでは精子を作り出す前に生殖細胞の増加が停止してしまいます。しかし、なぜ卵巣と精巣の生殖細胞でこのような違いが生じるのか、その意義はわかっていません。

本研究で明らかとなった生殖細胞の「身体のメス化」という特質に着目すると、メスにおいては、生殖細胞の数を増やすことで、身体のメス化を促進している可能性が、また、一方のオスにおいては、身体のオス化が完了するまでの間、生殖細胞の増殖を抑えることで、メスになるのを防いでいることが考えられます。

なお、最近の研究の動向から、動物は、本来、性が転換できる能力を持っていると考えられるようになってきましたが、どのような仕組みで性が転換するのかは全く不明です。生殖細胞の「身体のメス化」という特質が生殖細胞本来の特質であることから、オスでこの特質が発揮されることによって、メスへと性転換することが考えられます。このように生殖細胞の「身体のメス化」という新たな特質の発見により、動物の性が決まる仕組みの理解が一層深まると期待されます。

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