CD大量盗難の図書館、防犯カメラ設置に慎重
2018年04月08日 10時53分
http://www.yomiuri.co.jp/national/20180408-OYT1T50027.html?from=ytop_main9

 群馬県立図書館(前橋市)と前橋市立図書館で先月、大量の音楽CD盗難が相次いで判明した。
 盗難を防ぐ対策が急がれるが、県内の公立図書館では、抑止効果の高い防犯カメラ設置に慎重な図書館が少なくない。背景には、図書館が戦前の反省から利用者のプライバシー保護を重視する事情がある。
 読売新聞が県内12市の市立図書館に取材したところ、防犯カメラを設置しているのは高崎、桐生、伊勢崎、太田、沼田、館林、みどりの各図書館(一部施設の場合を含む)。CD317枚が被害に遭った前橋のほか、渋川、藤岡、富岡、安中の各図書館は分館を含めて設けていない。前橋市立図書館の栗木佳香館長は「図書館は誰もが気持ちよく静かに資料を読む場」とし、今後も設置予定はないという。
 図書館が防犯カメラの設置に慎重となる理由の一つに、日本図書館協会(東京)が定める司書の基本理念「図書館の自由に関する宣言」の存在がある。
 1954年に採択された宣言は、政治犯を取り締まった特別高等警察に個人の貸し出し履歴を伝え、政府の指示で特定思想の本などの貸し出しを制限してきた戦前の歴史を反省し、利用者の秘密保持や資料収集の自由をうたう。
 多くの図書館は宣言に基づき、利用者が本やCDを返した時点で貸し出し記録を消しており、協会の担当者は「いつ図書館にいて、何を読んでいたかを映像で残せば、思想や思考を他者に知られる可能性がある。防犯カメラは図書館の理念にそぐわない」と強調する。
 一方で、防犯上、設置はやむを得ない場合もあるとし、「秘密を守ることと盗難対策の間で板挟みになっている図書館は少なくない」と打ち明ける。CDについては、空き箱を置くなどの対策を奨励する。CD157点が盗まれた県立図書館は配架の周りに防犯カメラ3台を設置することを決めたが、担当者は「目的はあくまで抑止。録画画像は厳重に管理し、慎重に運用する」とする。
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 プライバシーに配慮しつつ、盗難防止の手段を取り入れる図書館もある。高崎市立図書館は2011年からBDS(ブック・ディテクション・システム)と呼ばれるシステムを導入。蔵書やCDにICタグを付け、貸し出し処理をしないでゲートを通過すると音とランプで知らせる。誤って持ち出すのを防ぐのが第一の目的で、盗難防止は二次的だが、設置している中央図書館と榛名図書館で目立った被害はないという。
 ただ、全ての蔵書にICタグを付ける作業や大規模なシステム改修が必要になるため、同市立中央図書館の秋山美和子次長は「図書館の建て替えなど、大きなきっかけがないと予算的にも難しいのではないか」という。
 約103万8000点の資料がある前橋市立図書館は全17施設のどこでも貸し出し、返却ができるようになっている。BDS導入には全施設の改修が必要になるといい、栗木館長は「現実的ではない。今後も利用者の善意が頼りになる」と話している。(小山内裕貴)