https://jp.reuters.com/article/us-china-trade-idJPKBN1HH11W

2018年4月10日 / 10:59 / 3時間前更新
Christopher Beddor

[香港 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国の習近平国家主席は10日、米中貿易摩擦を巡るボールをトランプ米大統領のコートに打ち返した。

主席はボアオ・アジアフォーラムでの演説で、市場の開放を進めていく意向を表明。過去の発言の焼き直しも多かったが、自動車その他に関して内容があるものもあり、早期に実施する可能性も示唆した。

──中国の習主席、年内の自動車関税引き下げ表明

ただ、それでもなお漠然とした市場開放の提案が米国の強硬派を懐柔できる可能性は低く、米実業界の穏健派でさえなだめることは難しそうだ。

しかしトランプ大統領にとっては、交渉の継続を正当化する余地が生じたことを意味する。

習主席の発言の中で最も中身があったのは、米国の基幹産業の1つである自動車セクターが対象だった。

中国は自動車産業に対する外資の出資限度を「可能な限り早期に」引き上げ、自動車の輸入関税を引き下げると表明。

これより曖昧な表現だが、外国企業の知的財産を一段と保護し、輸入を拡大していくとも述べた。

──中国主席の自動車関税引き下げ表明:識者はこうみる

演説は、主席が自由貿易の真のリーダーになりつつあるとの主張の裏付けには程遠く、一段の「約束疲れ(promise fatigue)」をもたらすリスクも包含している。

例えば主席は中国が、海外からの投資を受け入れていないセクターのいわゆる「ネガティブリスト(外商投資参入特別管理措置)」を縮小すると示唆したが、これはしばしば繰り返される約束で、海外の経済界では空手形のシンボルにもなっている。

習主席はまた、「自由貿易港」を検討すると言明。これは、規制当局が今後も、実体のない改革への批判をかわし続けようとすることを示唆している。

演説では、海外からの輸入品を国産品に置き換えることを目指した産業政策への対応や、経済に対する国の介入の抑制については言及がなかった。

ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表のようなタカ派は、習主席が提示したパッケージについて、笑えるレベルの低めのボールと受け止める可能性が高い。

そうだとしても、演説は中国政府の報復というムチに代わるニンジンをぶらさげ、トランプ大統領にとっては、大統領を支持するビジネスロビー団体でさえ戦うことを望んでいない関税戦争の開始を少なくとも遅らせる真の機会を提供している。

金融市場は習主席の演説を受けて上昇した。

主席の融和的な態度を一段の交渉に向けた最低ラインと受け取ることで、トランプ大統領は中国との自動車関税について勝利宣言する一方、より大きな譲歩と明確な実施期限の設定に向けて議論を続けていくことが可能となる。

トランプ政権が、中国の改革が「すぐにも」実施されるとの約束に懐疑的になるのは正しいだろう。

しかし初手としては受け入れるに値する。

●背景となるニュース

*中国の習近平国家主席は10日、海南省で開催中のボアオ・アジアフォーラムで演説し、外国企業への市場参入規制を緩和し、その他の開放政策も推進していく方針を示した。

*金融セクターの開放措置を確実に進めるほか、知的財産を保護し、自動車などの輸入関税を引き下げると表明。自動車セクターへの外資の出資限度を「可能な限り早期に」引き上げる意向も明らかにした。