2015.5.9 なぜ“生まれ故郷”の日本で「春画展」が開けないのか… 欧米では相次ぎ開催、西洋美術への影響が研究されているのに

2013年秋から冬にかけてロンドンの大英博物館で開かれた史上最大規模の春画展「春画−日本美術の性とたのしみ」は、日本国内に波紋−ある疑問を投げかけた。
それは大英春画展の日本巡回が頓挫したことでより大きくなり、いまなお宙に浮いたままになっている。
「なぜ、日本で春画展を開けないのか」−。

「これは、自国の文化・歴史を現在のわれわれがどう受け止め、捉えるべきかという重要な問題につながる疑問」と指摘するのは、
大英博物館プロジェクトキュレイターとして春画展準備に携わった、国際日本文化研究センター特任助教の石上阿希さんだ。

石上さんによると、海外では既に1989年にベルギーで春画展が行われており、2000年代に入って欧米各地で相次ぎ実現。
満を持して開かれた大英博物館の春画展は、同館と海外から集めた計約300点で構成。
古事記や神話などを背景に男女和合を寿ぐ日本の伝統や、春画が西洋美術に与えた影響など、「春画とは何か」を多角的に紹介し、3カ月で予想を上回る約8万7900人を集めた。うち55%が女性だったという。

大英では「16歳未満は保護者同伴が必要」と制限を付けた。また、交わり合う両親のそばに子供を描いた作品は、当時と現代の感性の違いを踏まえ、展示対象から外したという。
もっとも、「スペインで開かれた春画展では年齢制限が一切なかったそうです」(石上さん)というから、お国柄もあるようだ。

ある国公立館の見解−「誰もが見られる展覧会でなければ、社会教育を担う館の方針に合わない」に対し、石上さんは「大英のように『青少年は保護者同伴』で対応するなど、春画展でもやりようはある」と指摘する。
もっと単純に「苦情や批判が怖い」「スポンサーがつきにくい」という理由も。
実際、大英博物館の春画展では、頼みの日系企業に軒並みスポンサーになることを断られ、一時開催が危ぶまれた(日本の個人スポンサーたちの支援で実現にこぎつけたという)。

そして根本には、近代以降の日本で、春画は取り締まりの対象として社会的にタブー視されてきた背景がある。
出版物で春画が無修正のまま掲載されるようになったのは時代が平成に変わったこの四半世紀に過ぎない。
「議論は結構だが、個人的には大勢で春画を見たくない」(重鎮の美術史家)などと、美術館幹部や研究者にも、展示に積極的でない人は多い。

とはいえ、大英の春画展を機に状況は変わりつつあるようだ。
2013年には、社会で春画の公開がどう受け止められてきたのかを検証する「春画展示研究会」が研究者を中心に発足し、代表の木下直之・東大教授(文化資源学)は趣旨をこう発表した。
「出版でも研究でも、実物を目にすることが大前提であり、公的な収集・保管は重要な課題です。そして、それらは公開されることではじめて補完され、公共財産=文化資源となるはずです」

実は春画展でなくとも、一部、春画を出品した展覧会は、国内で何度か開かれてきた。
春画のみカーテンで仕切って見せる例が多いなか、2014年に開かれた東洋文庫の展覧会では、春画を含む浮世絵展示の部屋全体に年齢制限をかけた。
春画をあえて区別せず、美人画や風景画と同列に並べることで、「あくまで浮世絵の1つのジャンルとして捉えた」(担当学芸員)という展示は、一歩進んだ手法として受け止められた。

正式発表はまだだが、いよいよ今秋、都内の美術館が春画展を開くという話が出ている。どんな展示になるのか、注目を集めそうだ。

http://www.sankei.com/premium/news/150509/prm1505090028-n1.html