◆民事裁判に大改革!ネットで提訴、目指すはペーパーレス IT化議論進む

インターネット上で裁判を起こし、争点整理はウェブ会議で−。
民事裁判に大きな改革が起きようとしている。

訴状や準備書面をインターネット上で提出できるようにすることなどを盛り込んだ、民事裁判のIT化に向けた議論。
政府の有識者検討会は3月、「完全ぺーパーレス化」を目指すとする提言を取りまとめた。
諸外国と比べて立ち遅れているIT化を進めることで利便性を高め、国際競争力の強化にもつなげるのが狙いだ。

■手間、コストなど負担

「遠隔地の裁判でテレビ会議が活用されれば、コストなどが省けて大変ありがたい」
「裁判所への書面提出による郵送料、印刷代などのコストが小さくない」

昨年10月に開かれた有識者検討会の初会合。
メーカーや銀行の担当者が、IT化への期待を語った。

現在の民事訴訟法は、訴状や準備書面などを原則、紙で作成するよう義務づけている。
このため、裁判所に提出する際には持参するか、ファクスや郵便を利用することになる。
時に数百ページにも及ぶ書面を紙媒体として用意するには、手間だけでなくコストもかかる。

会合では、企業のペーパーレス化が進む中で「裁判書類の保管場所に困る」との意見も出された。
提言では、書面を24時間365日、オンライン提出できる仕組みを検討。
将来的には電子データに一本化することが望ましいとしている。

諸外国ではすでにIT化が進んでいる。
米国は1990年代に裁判情報へのアクセスシステムを導入。

シンガポールも2000年には書面提出が全面的に電子化された。
日本では平成16年に札幌地裁で期日変更などがネットで申し立てられるシステムを試行したが、約4年半で利用はわずか2件だった。

世界銀行の2017年版「ビジネス環境ランキング」で、日本はOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国のうち23位。
中でも「裁判の自動化」の項目は4点満点中1点で、経済界からも「使い勝手の良い制度にしてほしい」との声があがっていた。

■「3つのe」

提言は、民事裁判を(1)提出(2)事件管理(3)法廷−と3つの場面に分けて、それぞれの電子化を意味する「3つのe」の実現を目標に掲げている。

「e提出」は、訴状などをネット上で提出できるようにするほか、これまで印紙で支払っていた裁判の手数料も、ネットバンキングやクレジットカードなどで電子納付できるようにする。
紙媒体で当事者に交付していた判決文は、裁判所の専用システムから当事者がダウンロードする、といった方法を検討する。

「e事件管理」では、当事者が随時、ネット上で訴訟記録にアクセスできる仕組みを作る。
また、裁判の期日をネット上で調整できるようにすることで、スムーズな進行を目指す。

「e法廷」の柱となるのは、ウェブ会議やテレビ会議の活用だ。
現在も当事者が遠隔地にいる場合などにテレビ会議を行っているが、セキュリティの観点から、裁判所間での通信に限られている。
ウェブ会議で弁護士事務所と裁判所をつなぎ、審理を行えるようにすることで、当事者らが裁判所に出向く負担を軽減する。

法務省は民事訴訟法改正に向けた検討を行い、来年の法制審議会への諮問を目指す。
法改正の必要がないウェブ会議の活用が先行して導入されるとみられ、最終的なIT化までには数年かかる見込みだ。

解説図:http://www.sankei.com/images/news/180510/prm1805100003-p1.jpg

産経ニュース 2018.5.10 08:00
http://www.sankei.com/premium/news/180510/prm1805100003-n1.html