5/11(金) 11:56配信
Web東奥

 文化財を地域活性化、観光振興に生かすため文化庁が認定する「日本遺産」に、八戸市など6市町が2018年度、青森県太平洋側などに吹く冷風「やませ」をテーマに共同申請している。同市と階上町は16年度、同じテーマで認定を逃しているが、今回は特に供養塔など飢饉(ききん)の惨状を伝える文化財を多く盛り込み、やませと共生しようとした先人の知恵、教訓を学ぶ遺産として認定を目指す。

 日本遺産には地域の歴史や伝承、風習などを踏まえた「ストーリー」が認定される。同市などが申請したのは「やませ物語〜光と影の遺産を巡るはちのへ南部路〜」。16年度に申請した2市町に加え、三戸、南部、五戸、おいらせの4町が新たに加わった。

 前回の申請後、より分かりやすいストーリーにすべきという意見があったことを踏まえ、今回は飢饉という暗い歴史にあえて着目。「影」の遺産として、江戸時代、飢饉の餓死者を哀れんで造られた三戸町の斗内千人塚(県史跡)などを盛り込んだ。申請書では飢饉の惨状を伝える文化財について「飽食の時代に忘れがちな先人たちの凄惨な経験と記憶を、追想する機会」をもたらすと説明している。

 一方で「光」の遺産に、やませによる夏季の冷涼な気候などの影響で多様な植物が分布し「花の渚(なぎさ)」とも呼ばれる同市の種差海岸(国名勝)と階上町の階上海岸を据えた。同市や周辺地域で行われる五穀豊穣(ほうじょう)を祈る民俗芸能「えんぶり」(国重要無形民俗文化財)や、稲作に不向きな土地のため盛んになった馬産文化を受け継ぐ郷土玩具「八幡馬」、雑穀栽培から発達した「かっけ」などの粉食文化も紹介。構成文化財は19増の39となった。

 このうち、同市の貴福山対泉院には江戸時代、有志が建立した「餓死萬霊等供養塔(がしばんれいとうくようとう)」と「戒壇石」(いずれも県史跡)があり、餓死者数や教訓などを刻んでいる。上田祥悦住職は「碑文を読むと当時の悲惨な状況が目に浮かぶよう。今の恵まれた時代に、地域の歴史として学ぶのは大事なこと」と申請を歓迎する。

 飢饉をきっかけに江戸時代の思想家・安藤昌益が書いたとされる「自然真営道」(刊本が市文化財)も構成文化財の一つ。同市の安藤昌益資料館の三浦忠司館長は「来館者は県外からがほとんど。グローバルな視点を持った思想家がこの地域にいたことを、地域の人たちに知ってもらうきっかけになるのでは」と期待を寄せる。

 ただ、飢饉を伝える文化財は観光地や名所などとして言及されることは少なく、知名度はいまひとつ。同市の長者山近くの天聖寺山寺霊園に立つ「山寺跡供養塔群」は、今回新たに構成文化財に加わったが、棟方昌恵住職は「供養塔だけを見に来たという人は記憶にない」と話す。

 近年は、広島など歴史的悲劇の地を訪ねる「ダークツーリズム」が注目されている。担当の杉山陽亮・市教委社会教育課主幹は「影の遺産は地域の歴史で欠かすことができないが、なかなかスポットが当たらない。光と影の両方を知って、新しい地域の魅力として生かせるようにしたい」と狙いを語る。

 文化庁によると本年度、青森県からはこのほか弘前市が単独申請している。5月中に認定結果が発表される予定。

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