◆「私たちは声なき声の当事者だった」 セクハラ問題を受け、女性記者のネットワーク設立

財務省の前事務次官による女性記者へのセクハラ問題を受け、女性ジャーナリストたちによる「メディアで働く女性ネットワーク : Women in Media Network Japan(WiMN)」が5月1日に発足し、5月15日に厚生労働省で記者会見を開いた。
会員は、新聞・通信社、テレビ局、出版社、ネットメディアなど計31社とフリーランスを含む86人。
ほとんどが匿名で、会社を通さず個人として参加している。

■女性記者たちが実名で参加できない理由

代表世話人の一人でジャーナリストの林美子さんは、設立の経緯をこのように述べた。

「財務事務次官のセクハラが明らかになったことは、多くの現場で働く女性記者たちに大きな衝撃を与えました。
ほとんどの女性記者は取材の中でセクハラを受けてきたからです」

「勇気をもって記者が告発し、多くの報道につながりましたが、セクハラをなくす方向に世の中が動くかと思ったら、ちっともそうはならない。
危機感を共有した仲間が、私たちで何かしなければいけないのでは、と分野の違いを超えて集まりました」

ほとんどの会員が匿名で参加していることについては、セクハラを告発したテレビ朝日の女性記者がバッシングにあったことが背景にあるとした。

「本来なら実名で参加したいという人もいますが、そのことによるリスクが今の段階では大きすぎるからです。
女性だから、声をあげたから、ということでつらい思いをすることがない社会になったときに初めて、実名で顔を出して意見が言える。
そういう団体に、いずれなれたらいいと思います」

■セクハラを受け流す術を後輩に教えた

日本新聞協会の2017年4月の調査によると、加盟している新聞・通信社の記者数は1万9327人。
そのうち女性記者は3741人で、全体の約2割だ。
ネットワークは設立趣意書で、報道の現場がいまだ男性中心であることから「メディアを変えることで、社会を変えていく」と述べている。

「社会に対して問題提起をする報道の現場に女性が少ない、いてもその尊厳と安心して働く環境が守られないままでは、男性優位の社会を変え、女性に対する差別や人権侵害をなくしていくことはとても望めません」

ネットワークでは「紙上リレートーク」として19名の意見や体験談を集めた。
そこには、「自治体の幹部に無理やりキスをされた」「男性の同僚が『女は寝てネタを取れるからいい』と話している」といった経験のほか、業界独特の「ルール」を守り、セクハラを黙認することで生き延びてきた女性たちの反省の弁もあった。

「女性記者がまず身につけるべきは『自分の身を守ったうえで情報をとるテクニックだ』と入社直後から聞かされ、自分自身もそれを実践し、後輩にもそう教えてきた」(放送)
「取材先(多くは警察官)にセクハラを受けた経験は『女性記者あるある』になっていた」(新聞・通信)
「日頃は実名報道を掲げているくせに、取材活動や自身の生活を守るために匿名で会に参加している」(新聞・通信)
「自分たちが作る新聞では日々、『人権を守る』『差別を許さない』と声高に叫んでいるのに、足元の問題に向き合わないまま過ごしてきた」(同)など、記者としての立場と、当事者の立場の間で葛藤する声もあった。

こうした声を紹介した代表世話人の一人、ジャーナリストの松元千枝さんは、付け加えた。

「自分たちが耐え忍んできたことが結果的に後輩たちを苦しめることになった、という反省の弁の数々は、切なくて痛々しい仲間の声だと感じています」
「声なき声を代弁するために報道の業界に入ったのに、自分たちこそが声なき声の当事者だったと気づかされた、という共通認識があります」

写真:会見した「メディアで働く女性ネットワーク」代表世話人の林美子さん(右)と松元千枝さん
https://amd.c.yimg.jp/amd/20180515-00010005-bfj-000-2-view.jpg

Yahoo!ニュース(BuzzFeed Japan) 2018年5/15(火) 17:30
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180515-00010005-bfj-soci

※続きます