『死の迷路からの帰還』R・ゴンザレス著より抜粋

実は遭難者で飢え死にする人はほとんどいないという。
遭難死による四分の三は、道に迷ってから最初の四十八時間以内に死亡している。これは低体温症に
よるものである。

人はパニックに襲われると、第三者の目からすると合理的とは思えない行動を取ってしまう。
ありていにいうと、野山で死ぬ人間は皆、精神に混乱をきたして死んでゆくのだ。
「ウッドショック」という専門用語がある。方位感覚の完全な喪失にともなう恐怖を表わす言葉である。
この衝撃はほかに似たものがない。ほかのどんな恐怖とも、ほとんど類似点がない。道に迷ってしまうと、その人間がそれまで持っていた理性的能力はまったく役に立たなくなる。