【今まさに起こっていると感じられる過去】

未来に弱いのはADHDと同じですが、ADHDの人が過去をうまくイメージできないのに対し、アスペルガーの人は、過去のことを今まさに起こっていることのように感じているようです。

そういう意味では、同じ「現在」に生きる者同士とはいえ、時間感覚はかなり異なります。

アスペルガーは、過去について話すとしても、あくまで現在の出来事として感じているため、ポスト・フェストゥム(あとの祭り)ではない、とされています。すでに完了したことや、未知なることとは思っていないのです。

過去のことが今まさに起こっているように感じられるリアルな体験の中には、杉山登志郎先生によりタイムスリップ現象と名づけられたものも含まれるのかもしれません。


バランスのとれた人は、過去・現在・未来をうまく行き来できると考えられます。

過去を反省することもでき、未来を計画することもでき、今に没頭することもでき、あえてクールダウンすることもできます。
その時々によって時間感覚を使い分けられるのです。

ところが、過去や未来に弱いと、生活に支障をきたします。
「わかっているのにできない」ことがもしあるとすれば、それは過去・現在・未来を自由に移動できないことが原因かもしれないのです。


例えば、家族みんなで「今夜の夕食」について話をしている時、突然、何年も前に行ったキャンプの話をしたりして皆を驚かせたとします。

このときアスペルガー症候群の子供の中では、過去のキャンプのことが現在のことのように意識にのぼっているからです。


自閉症では記憶表象に対しても距離が欠如している。そのために、しばしば現在のことがらと過去の出来事とは重なりあって体験され、意識に遠い過去の映像がたえず侵入しつづける。

その一例をあげれば、高機能者の自伝では現在のことと過去のことがしばしばモザイク状に描かれている。(Williams,1994)。これは決して文章上の工夫ではなく、自らの体験世界を忠実に再現していると考えられる。