話を聞いてみると、消費者から「差別的だ」と批判が寄せられたことから、業界の団体が集まって
「はだ色」に代わる色の名前を検討しました。その中では「はだ色は実際の肌の色を示すものではなく
日本固有の慣用色」「代替の色名が統一しづらい」と意見もあったそうですが、最終的にはメーカー側が
自主的に色名を変更したそうです。
        
■色名から消える

実は日本では、JIS=日本工業規格が定める色が全部で269もあります。この中には、はだ色は残っています。
ただ、これとは別に、クレヨンや色鉛筆など製品によって使える色名を決めています。
JISでは、こうした身近な製品から“はだ色”という色名を使わないことにしたのです。
色鉛筆は平成12年、クレヨンと絵の具は平成19年、もうかなり前のことだったんです。

■はだ色鉛筆のセットはある

でも、はだ色ばかりを集めた色鉛筆はありました。世界のさまざまな肌の色を集めたという12色の色鉛筆セットで
イタリアのメーカーが作りました。最近売れているそうです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180525/K10011452251_1805251425_1805251517_01_08.jpg

「去年から販売を始めたところ学校単位の注文があったり、遠方から買い求めに来る先生もいたりします。
すでに400セットぐらい売れていて、学校教育の中で使われているようです」(都内の画材店)

■“はだ色”にこだわる職人たち

一方、「はだ色」についてはさまざまな意見があります。
呼び方が変わったことに少し戸惑いを見せているのは日本印刷技術協会の郡司秀明 専務理事です。
印刷会社などでつくる業界団体で、技術の向上に取り組んでいます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180525/K10011452251_1805251631_1805251638_01_09.jpg

「印刷業界では、『肌もの』ということばがあります。それくらい写真でいかにその人の肌の色をきれいに見せるかを意識して、こだわってきました」

『肌もの』にこだわる理由は、写真などで肌を表現する時、微妙な調整を繰り返してその時代にあった肌の色を表現するからです。
その色によってイメージがかなり変わり、こうした時に使われる“はだ色”は特定の色を指すことばではありません。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180525/K10011452251_1805251449_1805251517_01_10.jpg

■時代の価値観を表す色

「一昔前は“ガングロ”、バブル時代には少しピンクがかった肌の色。今の主流は黄色の割合を増やし、より自然な色合いを目指す“ナチュラル”です」
「印刷の世界では『はだ色』と言っても、一つの色ではない。その時代、世相などその時々で求められている肌の色という意味で使っているんです」
「現場で使うことばは、今も『はだ色』は『はだ色』。そこに差別的な意味は全くないんです」

印刷技術協会では、はだ色という色名が議論になったころ、「肌色シンポジウム」も開催。“はだ色”になぜこだわるのか技術者や化粧品の開発担当者がそれぞれの立場で発表しています。

■子どもにどう伝える

街で最後に話を聞いたのは、ともに2歳の子どもがいる2組の親子でした。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180525/K10011452251_1805251424_1805251517_01_11.jpg

もともと幼稚園の教員をしていたという母親は「もう『はだ色』って呼ばないんですよね? 知っています。
ペールオレンジやうすだいだいとか。新しい呼び名はピンとこないこともありましたが、いまはいろんな子がいるので
意識してそう呼ぶようにしています」 そう、話していました。

「うちの子はまだ小さく、この間『緑』と『黄緑』の違いをやっと覚えたくらいです。家で子どもに何色と教えるかはよく考えてみたいです」
もう1人の母親はそう話していました。

■消える“はだ色” 残る“はだ色”

かつてと違いさまざまな肌の色の人たちが日本で暮らすようになる中で、特定の色に“はだ色”という言葉を付けるのは確かにいろいろな誤解を受けると思いました。
いや、もしかしたら、いや、たぶん、クレヨンに”はだ色”があたり前にあった時代でも、つらい思いを感じていた人がいたのではないか、そう思います。
一方で特定の色でない“はだ色”は確かにあって、その色彩や色合いをどう出すかにこだわり、言わば、はだ色に勝負をかけている人たちもいました。

いま、はだ色が排除されたというより、時代の中である部分では消え、ある部分は表現を極めるというプロ意識の中で残っていく。
そんなことを感じました。