不法滞在者として退去強制処分が出された外国人を収容する法務省入国管理局の施設で、
収容者の自殺・自殺未遂事件が相次いでいる。収容者数は全国で1440人(17日現在)で、
この5年で約500人増加した。
医療などの処遇面でも収容者の人権が侵害されているとの指摘が高まっている。
「子どもたちに会いたい。苦しい」。
Aさん(42)はこぼれる涙を、係官に渡されたトイレットペーパーでぬぐった。

 東日本入国管理センター(茨城県牛久市)の面会室。
アクリル板を隔てて話すAさんは、来日約20年の日系ブラジル人男性。面会3日前の14日に自殺を図った。
窃盗で服役後、在留許可を取り消された。収容期間は通算2年8カ月。
8歳の長男が11歳に、長女は18歳になった。施設内の公衆電話を通じた会話で、
「今年はパパ出てくる? どうしていつも出ないの?」と尋ねられるという。
だが、いつ出られるのかは当てもない。

 同センターでは4月13日、
難民認定申請中に在留資格を失って収容されたインド人男性のディーパック・クマールさん(32)が自殺。
これをきっかけに、処遇改善を求めて収容者約120人がハンガーストライキを行い、国会でも取り上げられた。
収容者支援団体によると、この後も同センターで少なくとも4件、
東京入国管理局の収容施設(東京都港区)でも3件の自殺未遂が発生している。
 「以前なら(人道的観点に基づき施設から条件付きで解放される)仮放免が認められたようなケースでも却下されるなど、
ここ数年、入管の対応は厳しくなった。仮放免された人の再収容も増えています」。
外国人の人権問題に取り組む児玉晃一弁護士は話す。

 2015年、法務省は、外国人の動静監視を強化し、仮放免の判断は「慎重に」行うよう、
全国の入管局長らに通達。翌年には、20年の東京五輪までに
「我が国社会に不安を与える外国人を大幅に縮減する」との通知を出した。
仮放免者の「就労禁止」明文化が、収容者増加につながった、と児玉さん。
相次ぐ自殺・自殺未遂で浮かび上がった問題点とは何か。
児玉さんは「身体拘束の判断が入管だけで完結する現行制度が間違っている」と指摘する。

 一般の犯罪なら、捜査当局は、容疑者の国籍を問わず裁判所が出した逮捕状をもとに身柄を拘束する。
容疑者は、裁判所が認めなければ勾留されず、刑事訴訟法で身柄の拘束期間も定められている。
だが「不法滞在者」は入管の決定だけで収容され、裁判所など外部機関の判断を必要としない。
 普通は罪に問われても、公開の法廷で裁判が行われ、
審理の末に有罪判決を受けなければ服役させられることはなく、死刑・無期懲役以外は刑期も決まっている。

 だが、不法滞在者の処遇は違う。児玉さんが説明する。
「仮放免の審査も入管自身が行い、拘束を続ける妥当性の判断に第三者機関は関与しません。
いつ施設から出られるかのめども分からず、仮放免が却下されても本人や弁護士に理由が開示されないので、
何が問題なのか、どうすれば解放されるのかも分からないのです」。
昨年12月末時点で、全体の約43%が6カ月以上の長期収容者だ。

 クマールさんは、自殺前日に仮放免申請の却下を知ったという。先
が見えない絶望で衝動的に死を選んでしまったのでは−−。支援者たちはそう推測している。
 収容者は不十分な医療態勢にも苦しんでいる。
全国17カ所の収容施設に配置された常駐医師は、東日本入国管理センターの1人だけ。
一方、07年からの10年間に収容施設で死亡した12人のうち、少なくとも7人は病死と見られている。

関連ソース画像
https://cdn.mainichi.jp/vol1/2018/05/28/20180528dde001010003000p/6.jpg

毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180528/dde/012/040/003000c
続く)