いまにも波しぶきをかぶりそうな海岸沿いを、旧式のディーゼルカーが進んでいく。奇岩の並ぶ浜辺で、普通列車の窓を開けて乗客がカメラを構えた。その様子が見てとれるほど、列車はゆっくりと走っていた。

 川部駅(青森県田舎館村)と東能代駅(秋田県能代市)を結ぶJR五能線(147.2キロ)は、昭和11年に全線で開通し、住民の通勤通学の足として長年親しまれてきた。しかし、全国各地のローカル線と同様に過疎化などによって利用客は減少していき、一時は廃線もささやかれた。

 状況が変わったのは、平成9年に観光列車「リゾートしらかみ」が運行を開始してからだ。世界遺産に登録された白神山地の麓、海沿いを縫うように走る五能線の車窓には、風光明媚な景観が広がる。高波の日は運休してしまうほどの路線は、身近な自然≠逆手にとって観光列車として売り出した。

 現在では、国内だけでなく海外からも「乗ること」を目的に観光客が来るという。リゾートしらかみの年間利用客数は28年に過去最多となる12万人を突破した。JRの担当者は、「一般の利用者と観光客の比率で言えば、観光客の方が多いだろう」と打ち明ける。

 青森県深浦町の五能線沿線で民宿を営む田口彰さん(71)は、「リゾートしらかみが走りはじめてから観光客が増えた。外国人観光客が宿泊に来たこともある」と笑顔で話す。

 観光列車によって利用者の増えた五能線を参考にしようと、全国の自治体関係者が視察に訪れる。一時は廃線の話もあった東北のローカル線。現在では過疎地の活性化に鉄道が一役買ったモデルになっている。


動画
https://youtu.be/foNNIc9ZDzs


産経フォト 2018.6.3 06:00
http://www.sankei.com/photo/photojournal/news/180603/jnl1806030001-n1.html