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続き

ゴブリンやオーガ、敵国のキャラクター付けが中国・韓国なのは序の口だ。これらの作品が人気を獲得すると商業出版されていくと、今回の「二度目の人生を異世界で」のようなケースに発展しやすいことは想像に難くない。

◆メジャー作の原点にもある「嫌中」的な設定

『小説家になろう』出身のネット投稿小説の最大ヒットの一つで、アニメ化から劇場化も果たした『魔法科高校の劣等生』では、原作内でテロなどを企む大亜連合は、『なろう』掲載時には中華連合という名称だったもので、商業出版時に一応の配慮が行われたことがうかがえるものの、全体的なストーリーに変更はなかった。同作のアニメ化では、背景である大亜連合の描写を大きく省く処理がなされていたため、嫌中・嫌韓ではないかとの指摘はたびたびあったが、主人公の特異なキャラクター性に注目が集まり大きな炎上には至らなかった。しかし、このようなビッグタイトルにも、問題化してもおかしくない構造が隠れているのだ。

 このことから考えれば、今回の『二度目の人生を異世界で』の場合、筆者の過去のヘイトスピーチもさることながら、作中の日中戦争の残虐行為を想起させるような箇所を、商業出版の際に編集者が何も口添えせず手を入れなかったことにも責任の一端はあるだろう。そうしたことを抜きにして、批判の声が上がったからと、きちんとした声明も出さずに出荷停止にする判断は、問題がないとは言えないだろう。

 著者自身がネット右翼的な思想を持っているか否かは内心の自由ではあるし、そうした考えを背景にした作品が出版されることの是非や、アニメ放送されることの賛否はさまざまな意見・立場がありうるだろう。また、過剰反応する視聴者側の問題も小さくはないだろう。

 しかし、日本兵がもはや規格外の化物的存在に描かれすぎて中国でもネタ扱いしたり批判する人もいる抗日ドラマや、韓国の『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』のような、日本にミサイルを打ち込むような設定の小説を批判するなら、まずは国内のヘイトスピーチ傾向のある作品をこそ注視する必要があるのではないか。

 そして、これらの作品が問題化しやすい背景には、ヘイトスピーチが孕む問題に無自覚なまま書かれたネット投稿作品がそのまま商業化、アニメ化されて広く普及していく中で、商業媒体側がコントロールする努力を怠り、直接的なヘイトスピーチ的言説がそのまま残されてしまう構造にも問題があるのではないだろうか。

以上