万引きの再犯者率が依然高い中で、衝動的に窃盗を繰り返す精神疾患「クレプトマニア」(窃盗症)による再犯をいかに減らすか、試行錯誤が続いている。

 懲役刑のほかに社会での更生や治療が有効との考えが広がり、治療方法が注目される。全国でもまだ数少ない治療施設の一つで、依存症を専門とする横浜市中区の医院「大石クリニック」は、様々なプログラムで症状の改善に取り組んでいる。

 4月27日に大石クリニックで実施された患者によるミーティング。この日は、「お店の立場で考えてみましょう」をテーマに、臨床心理士の進行で約10人が自分の考えを自由に話した。参加者の多くが、過去に窃盗罪で有罪判決を受けている。当事者の意見を聞くことで自分を見つめ直すプログラムだ。

 「悪いことと分かってはいるけど、自分が最優先になってしまう。店長が泣き出しても、気持ちがどこかにいっちゃう」と打ち明ける女性。別の女性は、母親から「買い物の支払いは窃盗症の治療費だと思いなさい」と助言され納得した経験を披露した。参加者の一人は、「すごくいい」とその考え方にうなずいた。

 臨床心理士は、思い思いに話す参加者を否定することなく受け入れる。「第三者の指摘よりも、当事者間の方が注意を聞き入れやすい」と話す。同市旭区の女性(73)は約4年前から週に1回、夫の付き添いで通院し、症状は出ていない。「同じ苦しみを持った人と一緒に治そうと、前向きになれる」と手応えを感じている。

 大石クリニックはアルコール依存症などの治療も手掛け、10年ほど前からその治療方法を応用して窃盗症の患者の受け入れを始めた。年間約200人の新規患者が訪れる。衝動が湧いたら即座に逮捕などを連想するようにすり込む「条件反射制御法」のプログラムなどもある。

 窃盗症を治療する病院は全国で10か所ほどと、まだ少ない。大石雅之院長(64)は「再犯で実刑の可能性が見え、初めて来る人が多い。窃盗症が知られていないのも要因だが、本来は早期治療が大事」と課題を挙げる。また、「就労は全ての精神疾患に有効。仕事があればプライドが生まれ、生活が規則正しくなる」とし、就労支援にも力を入れている。(野口恵里花)

 ◆クレプトマニア(窃盗症)=米精神医学会による診断基準は▼金銭的な事情からではなく、窃盗の衝動に抵抗できない▼快感、満足、解放感を感じる▼妄想や幻覚によるものではない――など。摂食障害のある人も多い。近年、窃盗症を理由に裁判所が懲役刑ではなく罰金刑を言い渡すケースもある。問題に詳しい林大悟弁護士(東京都)は「病院での治療が有効と、認められつつあるのではないか」と話す。

http://sp.yomiuri.co.jp/national/20180610-OYT1T50024.html