【ソウル堀山明子】北朝鮮の公式メディアは12日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長のシンガポール訪問を「歴史的な米朝首脳会談のため」と大々的に報道した。北朝鮮がトランプ米大統領と渡り合う国際的な地位を確保したことを国内外に宣伝した。今後取り組む非核化が外圧に屈服したのではなく、経済改革のための交渉だと論理づける狙いもありそうだ。

ラヂオプレスによると、朝鮮中央放送など国営メディアは米朝首脳会談が始まった平壌時間12日午前10時、金委員長がシンガポール市内を観光した前夜の様子を伝えた。会談の開催は速報しなかった。

しかし、今年3月以降、金委員長が2回の中朝首脳会談のため北京と大連を訪れた際には、平壌に戻るまで訪中自体を報じなかったことに比べれば、米朝首脳会談開催前に訪問目的まで報じるのは異例だ。会談を「歴史的」と宣伝するのは「完全な非核化」を巡る交渉で譲歩があっても、トップの決断だと国内を説得するための布石とみられる。

11日付の党機関紙「労働新聞」は1面トップで、金委員長がシンガポールに到着し、中国国際航空(エアチャイナ)機から降りる写真とともに報道。金委員長が専用機に乗らなかった事実を隠さなかった。

平壌発のAP通信によると、シンガポールを訪問した金委員長の様子は11日、北朝鮮国内のテレビでも流され、平壌の地下鉄駅前に設置された大型画面の前には100人以上の人だかりができた。同日の労働新聞が掲示された駅構内の閲覧コーナーでは、割り込むようにして熱心に読む市民の姿も見られた。金委員長の父・金正日(キム・ジョンイル)総書記時代にはなかった最高指導者の外遊に、市民は関心を持って見守っている模様だ。

朝鮮中央通信によると、シンガポールを観光した金委員長は11日夜、同国のバラクリシュナン外相に「シンガポールの経済的潜在力と発展がよく分かった。多くを学ぼうと思う」と述べた。米朝首脳会談を機に外資を誘致し、経済改革を加速化させる意向を示したものだ。

北朝鮮は、核実験場の廃棄と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験中止を決定した4月20日の党中央委員会総会で、今後は経済建設に集中すると路線転換した。国際的な地位を高めるために推進した核開発との並進路線に「勝利」したという前提で、「経済建設のための有利な国際的環境を整える」と強調している。

2018年6月12日 18時29分(最終更新 6月12日 19時02分)
毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180613/k00/00m/030/040000c
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180612-00000063-mai-int