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 その当時、例えば三輪さんなんかは朝日ジャーナルなどに捕鯨の問題を書
き、水産大の平沢さんも書いたりしていたんですけれど。そのときに彼女と話
していて、「鯨の問題も大事だけれど、核の問題が大事じゃないか」と言った
ことがあります。グリンピースはそれをいろいろとやってるわけで、その後彼
女はバンクーバーに戻って、逮捕されたりしていますが、再び日本に来たとき
は、反原発で、鯨のことはあまりやらなかったんですよ。
 というわけで、鯨の問題と、核の問題というのは関わっている人が重なって
いる。私はその象徴は和歌山県の太地だと思います。太地というところは、町
議会で原発に反対している数少ないところです。那智勝浦町に原発の計画があ
り、その隣町です。。一方捕鯨をしているわけで、これは歴史的には何百年と
いう歴史があります。だから、おまえの立場はどこになるんだ、といわれる
と、私は太地の人々と同じ立場です、ということになります。鯨のほうではつ
きあいないですけれども、原発のことではもう町議会のほうとも漁業協同組合
ともみんな長いつきあいですので、鯨の問題も苦しいところはある。
 『鯨の文化人類学』についての書評も書いています。本の内容は「日本の沿
岸小型捕鯨を、原住民捕鯨とも遠洋大型捕鯨とも違った第3のカテゴリーとし
て設けよう」というものですが、それはちょっと無理なんじゃないか、という
話を書きました。
 具体的に、ひとつは、アイヌの人たちが捕鯨をやっていたことについてほと
んど調べていないのです。資料はあるのです。いまから45年前の本で、現在ア
イヌの人で捕鯨を経験した人の話をいろいろ聞いています。アイヌの人たち
は、日本の沿岸の、釧路とかで捕鯨が始まったことと関係してくるわけで、も
ともとカツオでもマグロでも、もともとは沿岸で獲れてたのが、遠洋漁業とい
う形でどんどん沖に捕りに行くことによって岸まで来なくなったというのもそ
れと同じことなんですね。ですから、100年、7〜80年前までは噴火湾で捕鯨は
あったんです。そういうものとつなげて見ていくと、いま日本でやっている捕
鯨というもののおかしさがいろいろ見えてくる。
 もうひとつ、企業的大規模捕鯨の草分的存在である東洋捕鯨というところ
が、いまから100年ぐらい前に各地の漁民から徹底的にたたかれたんです。そ
れは公害企業としてです。鯨を解体すると大量の血が出ますね、それが磯を荒
らすということで、例えば、いま原発反対でおばさんたちが坐り込みをしてい
る石川県の能登の珠洲市そのとなりに宇出津というところがあります。宇出津
では東洋捕鯨の会社が進出しようとして、地元漁民の猛反対にあって撃退され
たり、それから、その2年後に、青森県の鮫というところに東洋捕鯨の会社
が、工場ができて、それが焼き打ちにあっているんですね。ここはいま、核燃
サイクルに猛反対しているところです。そういうふうに、実はいろんなところ
で重なり合って、見えてくる。太地の人の動きなんかも重なってくるわけで
す。グリンピースの人たちはそれと非常に重なった行動をしているわけですか
ら、接点は非常にあるんですね。そういう目で見て行けば、あんまり、鯨食う
のがいいとか悪いとかじゃなくなるわけです。