3人が亡くなった土砂崩れの現場付近では、被害状況の調査が進んでいた=2018年7月10日
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 四国のほぼ西端に位置する愛媛県宇和島市。海岸沿いに家が立ち並び、すぐ裏まで山が迫る同市吉田町は土砂崩れが相次ぎ、10日までに11人の死亡が確認された。

 同町の立目地区では7日朝、横田数枝さん(67)の自宅に崩れた裏山の土砂が流れ込み、数枝さんと娘の真美さん(41)、真美さんの息子で小学4年の海翔(かいと)君(9)の一家3人全員の命を奪った。

 「おかあさん!」。9日昼、現場を覆ったブルーシートの外まで届くほど大きな声が響いた。数枝さんが運び出された後、3人の家の近くに住む数枝さんの息子は救助活動を終えた自衛隊員らを見送り、その場にしばらく立ち尽くした。

 近所の人らによると、土砂が家をのみ込む直前、数枝さんは「私もこれから逃げるから」と、近所の高齢者に避難を促していたという。数枝さんの中学時代からの友人で、近くに住む竹田みさ子さん(67)は「あと少しだけ早く逃げていれば……。困っている人を放っておけない人だったから」と悔しがった。

 約80戸からなる立目地区は高齢化が進んでおり、子どものいる家は少ない。福祉関係の仕事をしていた真美さんに代わって、通学する海翔君をバス停まで見送るのは数枝さんの役目だった。仲の良い横田さん一家の姿を、地元の人たちはほほ笑ましく見ていた。

 海翔君が通っていた保育園で保育士を務め、親族でもある若山香代さん(62)は「海翔君はすごく元気。保育園では小さい子の面倒をよく見てくれた」。

 ダンスを習っていたという海翔君は、小学生になると愛媛県のプロバスケットボールチームの試合のハーフタイムでダンスを披露するまでになった。通学していた市立吉田小学校の高月邦昌校長(59)はそのダンスを見たことがあるといい、「褒められるとうれしそうだった。明るく元気な姿が思い出されて、悲しい」と嘆いた。

 昨夏に開かれた地区のカラオケ大会では、海翔君も歌を披露して、大人たちを楽しませたという。救出現場を見守っていた近所の土居久忠さん(58)は「みんなにとって大切な子どもの命が奪われるのは、耐えがたい」とつらそうに語った。(波多野陽、柳川迅)

2018年7月11日08時45分
朝日新聞デジタル
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