「片時も離れられません」
和希くんは、先天性ミオパチーという全身の筋力が低下する難病を患っている。生後7カ月間は新生児集中治療室(NICU)で過ごし、家に連れて戻ったのは1歳になってからだった。

今も自力で呼吸ができないため、人工呼吸器を手放せない。たんの吸引も欠かせない。
日中は数分から数十分おきに、たんの吸引が必要で、家族は片時も離れることができない。

鼻から胃にチューブを通して、点滴のように栄養剤を注入する「経管栄養」も必要だ。その都度1時間、1日5回。母親の悦子さん(48)は付きっきりだ。

親子は普段、NPO法人「療育ねっとわーく川崎」が運営する「サポートセンターロンド」を週1回利用している。
医療的ケア児を受け入れる施設は全国でもそう多くない。ここは、その一つだ。

悦子さんは週1回、3時間程度、和希くんをここに預け、その間に家庭の用事などを済ませる。
公的な支援制度があり、利用料の個人負担は1割だ。とはいえ、悦子さんの本心は「週1」ではなく、「毎日」かもしれない。

「なんだかんだ、月曜日から金曜日まで毎日、どこかに出掛けているので。和希が頑張って。
朝、聞くと、『外に行く』って。私も家にいると、家のことをしてしまって、和希にはテレビを見せるだけになってしまうじゃないですか? 
幼稚園なり、療育センターなり、児童デイなり行って、先生やみんなと遊んだり、したいと思うんですよね。『行かない』って言ったこと、ほぼないですね」

サポートセンターロンドでは、医療的ケア児を受け入れるため、看護師1人を常駐させている。
管理者は「今の制度では(看護師に対する支援制度の)規定がない。看護師の人件費は、他の事業で補填(ほてん)しています」と話す。


全国医療的ケア児者支援協議会事務局長で、NPO法人フローレンスで障がい児保育事業を運営する駒崎さん(38)が解説する。

「医療の発達に福祉が追い付いていないということなんです。せっかく助かった命なのに、(人工呼吸器などの)医療的デバイスが
体に付いていると、医療的ケアが必要になる。福祉施設では、医療スタッフを置いていないところが多く、今の制度では対応しきれません」

2016年5月成立の改正児童福祉法は、「医療的ケア児」支援の努力義務を自治体に課した。
それでも、駒崎さんの元には「医療的ケア児を預ける場所がない」という声が全国から届くという。支援制度が整い始めたとはいえ、漏れ落ちる子どもたちはあちこちにいる。