死者・安否不明者の氏名に関する3県の対応
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 西日本を襲った豪雨被害で、今も多くの住民の行方が分かっていない。安否不明者らの氏名を明らかにするか否か−−。県によって、その対応が割れている。「プライバシー」を理由に慎重な自治体が多い中、岡山県は11日、不明者が続出したことから早期の安否確認につなげようと、方針転換して氏名を公表。この日のうちに生存が確認される住民も相次いだ。各地で試行錯誤が続いている。

 <実家や両親の安否が心配です。両親の名前は……><……高校の生徒で、真備・総社地区で避難している人の名前と学年DM(ダイレクトメッセージ)かLINEで教えて……>

 豪雨災害を巡り、ネット上ではツイッターなどで知人などの安否情報を求める投稿が相次いでいる。被害が大きかった自治体では、安否不明者の氏名についてどう対応しているのか。

 11日に一転して不明者の氏名を公表した岡山県は、当初は市町村から寄せられた情報を基に基本的には人数や性別を公表し、氏名に関しては市町村の判断に委ねていた。このため、自治体で対応にばらつきがあり、非公表としたケースが目立ったものの、新見市のように「早期発見につながる」として氏名を公表する市や町もあった。

 避難者からも情報を求める声は出ている。「誰が亡くなり、誰が不明になっているのか……。分かっているのなら教えてほしい」。倉敷市真備町地区の避難所にいた河田勇雄さん(82)は漏らした。近所の人たちに関して「死亡」「不明」といった情報が一時交錯し、不安になったという。

 こうした中、11日になって真備町地区で多数の安否不明者が出ていることが判明し、県は同日、同地区を含む県内全体の安否不明者の氏名公表に踏み切った。氏名を公表された住民について「生きている」との情報が県に寄せられ、生存が確認されたケースが続いた。とはいえ、住民の理解が得られている事例ばかりではない。一部の家族から非公表を望む意向が示されたとして、同日夕の報道発表資料から不明者1人の氏名が削除されている。

 最多の死者・安否不明者が出ている広島県では、県警の身元確認情報を基に県が死者の氏名を明らかにしているものの、不明者については、情報提供元の各市町の了解を得ていないとして公表を見送っている。

 ただし、77人が死亡した2014年8月の土砂災害では、広島市が安否確認を進めるために不明者の氏名を発生5日後に公表していた。市の担当者は今回も「公表の用意はある」としつつ、「自治体ごとに公表、非公表とすると集約する県が困る」と説明。湯崎英彦知事は10日夜、不明者の氏名公表について「考える必要があるかもしれず、市町と相談しなければ」と述べ、今後の検討課題との認識を示している。

 一方、愛媛県は「個人情報保護」などを理由に、死傷者と不明者の氏名を明らかにしていない。7日の災害対策本部設置にあたって当面匿名での発表を決めており、中村時広知事は氏名公表について「慎重になるべきだ」との見解を示す。【東久保逸夫、高橋祐貴、木島諒子】

専門家「公益性優先」

 近年の自然災害でも、安否不明者の氏名公表を巡り個人情報保護が非公表の根拠にされたことがあるが、多くの自治体の個人情報保護条例には緊急時の情報提供を認める規定がある。

 2015年9月の関東・東北豪雨では、茨城県常総市が連絡の取れない住民を安否不明者と数えて県に報告し、県が氏名を公表せずに15人を不明とし続け、自衛隊などの捜索が続いた。結局、県警の戸別訪問などで無事が判明。市は「個人名を出すことには慎重にならざるを得ない」と説明した。

 市の個人情報保護条例は、本人の同意がなければ個人情報を外部提供してはならないと規定する一方、「個人の生命、身体を保護するため、緊急かつやむを得ない時」は例外的に提供できるとする。横島義則・防災危機管理課長は取材に「以前は慎重だったが、公表して不明者の安全が早く確認できれば家族を安心させられるし、残る不明者の捜索に集中できる良さは意識するようになった」と話す。

毎日新聞 2018年7月12日01時06分(最終更新7月12日01時17分)
https://mainichi.jp/articles/20180712/k00/00m/040/170000c