アマチュアボクシングを統括する日本ボクシング連盟が揺れている。日本オリンピック委員会(JOC)などに出された告発状で、助成金の流用や試合判定の不正疑惑があらわになった。内紛の背景には、山根明会長の強権的な組織運営に対する反発がある。

全国高校総体のボクシング開会式。日本ボクシング連盟の山根明会長は姿を現さず空席だった(1日)=共同
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 各都道府県の連盟会長ら333人が名を連ねた告発状では、リオデジャネイロ五輪代表の成松大介選手が交付を受けた日本スポーツ振興センター(JSC)からのアスリート助成金240万円を山根会長の指示で3選手で分け合った事実や、同会長がかつて役員を務めた奈良県の選手に勝たせるように審判への圧力があったこと、会長への過剰な接待の強要などを指摘している。

 山根会長は共同通信などの取材に助成金の流用は認めたが、それ以外の疑義は否定している。ボクシング連盟のホームページによると、テレビの生放送を条件に近く会見を開く意向という。

 「一番はパワハラと判定問題。これ以上、選手たちにつらい思いをさせてはいけない」。告発に加わったある県連盟理事は動機をこう語る。山根会長の強権体制の弊害が露呈しているという。関東の強豪高校監督は「試合後に審判が会長から厳しく叱責されているのを会場で見た」と話す。

 山根氏は2011年に会長に就任した。長らく関係の冷え切っていたプロ側との交流を進めたり、国際大会への派遣を増やしたりして長期低迷していたアマチュアボクシングを再浮上させた。翌12年ロンドン五輪では村田諒太が48年ぶりの金メダルに輝き、清水聡も銅メダルを獲得した。

 成果がすぐに出たことが、ワンマンぶりに拍車をかけたのか。12年10月の理事会では「終身会長」を決議。徐々に周囲もイエスマンばかりになり、ものが言えない空気が強まっていったという。

 近年、反体制派の不満は膨らんでいた。2年前に国体実施競技の選定評価で最下位になり、23年から2年に1度の隔年開催に「格下げ」になったことが火をつけた。さらに昨年4月には、プロ側が主催する15歳以下のキッズ大会に参加した場合、将来の選手登録を認めない可能性を含む決定を下した。近年のキッズボクシングの隆盛が競技力向上や底辺拡大に寄与しているだけに「このままでは将来がない、という危機感で行動に出た」と告発人の一人は話す。

 3日にもJOCが日本ボクシング連盟に第三者機関による調査を通知する。ただ、執行部と反体制派が激しく対立する状況で適切に行えるか不透明だ。早期に収拾できないようだと、開幕まで2年を切った東京五輪に向けた選手強化、大会準備への影響も避けられなくなる。

2018/8/3 10:47
日本経済新聞
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