https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180804-00000554-san-cn
 中国の通貨、人民元が米中貿易摩擦への懸念から対ドルで大きく下落している。8月3日には約1年2カ月ぶりの安値を記録。
市場では、中国当局が貿易摩擦の悪影響を補うため、元安を容認して輸出を後押ししているとの見方が強い。
ただ、中国経済の先行き不透明感が強まる中、急速な元安は株式との連鎖安や資金流出を招きかねず、当局は難しいかじ取りを迫られている。

 国内総生産(GDP)世界2位の中国の市場混乱は日米欧にも悪影響を及ぼすため、市場の警戒感は高まっている。

 中国人民銀行(中央銀行)は3日朝、人民元取引の目安となる「基準値」を約1年2カ月ぶりの元安水準に設定したが、同日の取引では一時、
1ドル=6・8905元まで売られた。

 人民銀は同日、将来、元を売って外貨を買う約束をする為替予約に20%の準備金預け入れを6日から義務付けると発表した。
投資家の元売りコストを増やして元急落を抑制する狙いだが、直接的な元買い・ドル売り介入ではないため、効果は未知数だ。

 上海対外経貿大の陳予雷教授は「1ドル=7元前後までは合理的な範囲内」と分析する一方、7・5〜8元のレンジに達すれば“危険ライン”と指摘する。

 元の下落が始まったのは今年4月。米国との貿易摩擦がエスカレートし始めた時期とほぼ重なり、市場は減速しつつある中国の景気には“逆風”ととらえた。
さらに、米国で利上げが続き、投資マネーが新興国から米国に向かう動きが強まっている。
これに加え、金融政策も景気下支えのため緩和傾向にあり、元安に拍車がかかりやすい構図だ。

 元安について、当局の「容認」にとどまらず「誘導」があるとみるのは東京財団政策研究所の柯隆(かりゅう)主席研究員。
貿易摩擦でカードをほぼ切り尽くした中国が「少しでも製造業の輸出を後押しするために元安に誘導している」と指摘する。

 ただ、元相場の安定性を不安視する声も高まりつつある。元が急落すれば資金流出に歯止めがかからず、元と中国株が連鎖的に急落し、
世界同時株安を引き起こした2015〜16年の「チャイナ・ショック」を繰り返しかねない。
為替相場を恣意(しい)的に管理してきた中国の金融当局は市場との対話が上手ではなく、投資家が疑心暗鬼に陥りやすいことも懸念材料だ。

 トランプ米政権の次なる一手が見えない中、元相場の不確実性は強まっている。
最悪のシナリオは、当局がいくら元買い介入をしても暴落を止められず、ハイパーインフレなどの「通貨危機」につながる事態だ。
そうなれば「世界恐慌」まで意識される。元安の「防衛ライン」をめぐって、当局と市場との息詰まる神経戦が続きそうだ。