ANAホールディングス(HD)は6日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携して宇宙関連事業に乗り出すと発表した。
宇宙ステーションや月面、火星などにロボットを配備。

地上からの遠隔操作で簡単な作業をしたり疑似的な宇宙観光を体験したりする体制を整える。
スタートアップも含め宇宙関連事業の競争は既に加速している。
早期の事業化で空の先の宇宙を新たな収益の柱に育てる。

「JAXAや多くの企業と宇宙に向けて大きく飛躍したい」。
JAXAの相模原キャンパス(相模原市)で同日記者会見したANAHDの片野坂真哉社長は意気込みを語った。

同社は事業会社の設立を視野に入れている。
JAXAが民間企業と手掛ける研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ」の一環としても開発を加速させる。

目指すのは、宇宙に配備したロボットを地球から遠隔操作する事業だ。
仮想現実感(VR)や触れた感覚を伝えることができる先端技術などを組み合わせ、ロボットを介して宇宙ステーションの作業のほか、月面や火星での簡単な建設作業をする。

訓練を積んだ宇宙飛行士でなくても宇宙での様々な作業を体験できる。
VRなどを通じて疑似的に宇宙旅行することも可能となる。

まずはANAHDやJAXAに加え、大林組や大成建設、NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI、エイチ・アイ・エス(HIS)などの参加企業とともにコンソーシアムを設立。
事業性を検討する。ロボットの利用料や開発した技術を企業・機関に提供し対価を得る収益モデルが有力だ。

2019年から大分県に宇宙環境に見立てた実証実験場を建設を始め、ロボットの遠隔操作を検証する見通しだ。
20年代前半には地上と宇宙ステーションなどとの間で実証実験を計画。その後に月面や火星へロボットを配備して作業や建設ができる段階に進める考えだ。

ANAHDが事業会社の設立や事業計画まで踏み込んで表明した背景には、宇宙関連ビジネスの競争加速が大きい。
同社はこの事業を将来の有望分野とにらむ。宇宙飛行や高速輸送などの事業化の可能性を探り、宇宙飛行機開発のスタートアップ、PDエアロスペース(名古屋市)に出資するなど動いていた。
片野坂社長自身も入社当時に将来の夢を語る機会で「宇宙輸送をやっていたい」と宣言したという。

しかしイーロン・マスク率いる米スペースXや、ヴァージン・ギャラクティックなどが宇宙への旅行や輸送計画をすでに進めている。
宇宙開発の促進を図る法律が施行された日本でもスタートアップが台頭してきた。

宇宙関連事業の市場規模は将来的に100兆円になるとの予測もある。
未来の世界と思われていた関連ビジネスの実現はすぐ目の前にまで来ている。
構想があっても体制を整えなければ後手に回りかねない。

JAXAもコンソーシアムに参加する企業との連携を通じて、日本勢で先端技術を活用した宇宙開発で主導権を握りたい考えだ。
ANAHDは宇宙関連事業の収支目標はまだ持たないという。
競合相手がひしめくなか、事業化へのスピード感が勝敗を分けそうだ。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35045530W8A900C1TJC000/