散々指摘されていることであるが、周囲の人間が何事もなかったように横断して立ち去っている。
この光景を見た吉澤さんは、錯誤してしまったのではないか。
「何事もなかったのだ。事故を起こしていないのだ」と。

パニック状態になったとき、人間の脳は冷静な判断を下せなくなる。
一種の防衛本能が働き、認知さえ歪める場合がある。
事故を起こした吉澤さんがパニック状態にあったことは、論を俟つまい。
その際に眼前で通行人たちが平然と横断していく。
吉澤さんの脳が「錯誤」してしまうことは充分に有り得よう。

結果的に「逃げた」形になっているが、実態は、どうか。
パニック状態の脳の錯誤により「何事もなかった」との認識でいたならば、「逃げた」という表現は適当ではあるまい。
15分後、パニック状態が収まり、脳が冷静に記憶を反芻し、ようやく「事故を起こした」という現実を認識したのであろう。
そして即座に通報し、現場に戻ったのである。

動画からうかがえることは、「轢き逃げ」という個別事案ではなく、周囲の人々の無関心さによって「錯誤」が生じ、その帰結として走り去ったという現象である。
いわばこれは現代日本人の無関心さが生み出した不幸な出来事であると言えよう。