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Columnコラム
二国間の貿易収支は重要ではない
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 たとえば,世界がアメリカ,中国,オーストラリアの3つの国からなるとし
よう, アメリカは1000億ドルの機械部品をオーストラリアに販売し, オースト
ラリアは1000億ドルの小麦を中国に販売し, そして中国は1000億ドルの玩具を
アメリカに販売している. この場合,アメリカの中国に対する二国間貿易収支
は赤字であり,中国のオーストラリアに対する二国間貿易収支も赤字,オース
トラリアのアメリカに対する二国間貿易収支も赤字である.しかし, 3つの国
はどの国も1000億ドルの財貨を輸出し,同額を輸入しているので、全体として
の貿易収支は均衡している.
 二国間貿易収支は政治の分野では過大に注目されている。これは1つには国
際関係が国対国で結ばれており、政治家や外交官は国対国の経済取引を測定す
る統計に自然と眼が行くからである。しかし、ほとんどの経済学者は二国間の
貿易収支にそれほど大きな意味があるとは考えていない。マクロ経済の観点か
らは,ある国とそれ以外の諸外国全体を合計した貿易収支が問題なのである。
 国と同じことは,個人についても当てはまる。あなたの個人としての貿易収
支は、あなたの所得とあなたの支出の差額であり, この2つが見合っているか
どうかは気になることだろう。しかし、特定の個人や特定の企業との所得と支
出の差額はあまり気にすべきではない。かつて経済学者ロバート ・ソローは、
二国間の貿易収支が重要でないことを次のように説明したことがある。「私は
理髪店に対して慢性的な赤字だ。彼は私から何も買おうとしないからね」。し
かし、そのことでソローが収入に応じた暮らしをやめることはないし、必要に
なればいつでも彼は理髪店に行くのである。

マンキューマクロ経済学入門篇200頁