今回の日韓のいざこざを国際社会のなかで考えると、ドイツの戦後補償によって生じた先例が影響して
いるように思える。

韓国最高裁の理屈は、不法行為についての賠償問題は条約で合意した請求権の放棄に含まれない
という主張だと新聞に書いてあった。これは広く世界をみると、ドイツが東西冷戦後に東欧諸国に個人
補償をおこなった理屈ととてもよく似ていることにすぐ気づく。

東欧諸国については、彼らがナチスドイツの承継国と認める東ドイツがソ連の指導のもと国家間で請
求権問題を解決したはずであった。しかし冷戦終結後に統一ドイツは強制労働については個人補償が
必要だとして補償を始めた。つまり国家間で請求権問題が一度解決していても、あとで不当な強制労
働への補償が行われることがあるという先例が、ドイツと東欧諸国の間で生まれた。

はたしてこの先例がドイツと東欧の間の例外的な出来事なのか、それとも国家間がおこなう包括的な
請求権放棄の効果について、広く国際社会一般の慣習的なルールとなっているのか、それを日韓の
徴用工問題の今回のケースが明らかにしてくれるかもしれない。