住民投票が不成立となり、投票用紙を封印する市職員ら=2016年11月20日午後8時51分、愛知県高浜市で(同市提供)
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市名を「丹波篠山市」にするか否かを巡って18日に住民投票が実施される兵庫県篠山市。2008年から続く市名変更問題に白黒つけるものとして期待されているが、「投票率が50%に達しないと開票されない」という条例規定が不安も生んでいる。今から2年前の2016年11月、公共施設の解体を巡って、篠山市と同様、住民らが署名を集めて市に実施を請求した住民投票が行われたものの、50%の壁を超えられずに不成立となったまちがある。なぜ住民投票が起き、なぜ”失敗”したのか、そして、その後、まちはどうなったのか。投票の題材こそ違えど、今回の篠山市とよく似た経緯をたどった愛知県高浜市を訪れた。

■公民館解体巡り反対運動

 「『何やってもダメだがや』。住民投票が不成立に終わってから、私の周りではそんな声が聞こえる。それから『そんなこともあったな』って。1年も過ぎると忘れてしまう人もいるね」

 高浜市初の住民投票を実現させた「高浜の住民自治をめざす会」の会長を務める牧信儀さん(69)=同市芳川町=が苦虫をかみ潰したような表情で漏らした。

 愛知県中部、人口約4万8000人のまちで実施された住民投票は、市内唯一のホールを備えた中央公民館の取り壊しの是非を問うものだった。

 市は2014年、既存の公共施設の統廃合や複合化をまとめた基本計画の一環として、老朽化を理由に中央公民館も解体することを決めた。

 当初は2020年に小学校の体育館を改築し、ホール機能を持たせた上で取り壊すことにしていたが、市内にある刈谷豊田総合病院高浜分院が同じく老朽化を理由に移転・新築を計画したことから、15年、4年前倒しして16年に解体し、病院の移転先にすることになった。

 市は市内各地で説明会を開催。もともと公民館の取り壊しを決めていたことや、今後も修繕などの費用が発生すること、ホールは市内の代替施設の利用などを掲げた。

 その後、16年3月には市議会定例会で解体が賛成多数で議決された。

 この市の動きを「拙速」「強硬」と捉えたのが、町内会長を務めていた牧さんや、副会長の矢野義幸さん(68)=同。矢野さんは説明会で、1980年に建設された公民館について、「まだ使用できるのにもったいないのではないか」などと訴えたが、「市長と議会で決めることだと言われた」と振り返る。

 この説明会でのやりとりの後、「取り壊し反対」の活動を開始。公民館の取り壊しが決まり、普段、発表会などを開いていた吹奏楽部の高校生らが落胆していることも背中を押したという。

■署名1万3316筆集め、住民投票へ

 解体が議決された3月議会中には、「住民自治をめざす会」として、賛否を問う住民投票の実施を求める「陳情書」を9510筆の署名とともに議長に提出したものの、本会議では賛成少数で不採択となった。

 そして、同会は市の条例に則った住民投票の実施を目指して署名集めに突入。当時の有権者は3万5902人で、署名数の規定は篠山市よりもハードルが高い3分の1だったが、7月11日からの1カ月で規定を上回る1万4996筆の署名が集まった。市選挙管理委員会の審査などをへて、1万3316筆で確定、市に実施を請求した。

 「暑い時で、署名をもらいに行ったら、ジュースをくれたり、ボールペンを持って待っていてくれたり。たくさんの人が市政に関心を持っていた」と牧さん。そして、矢野さんは言う。

 「住民投票が成立して気が緩んでしまった。まさか不成立になるとは」

 投票率は36・66%だった。

 ◆住民投票条例 首長と議会による間接民主主義を補完するものとして、全国のさまざまな自治体で制定されている。特定の問題に対処するのではなく、住民投票条例を常設している篠山市や高浜市のでは、市長発議、議員請求、住民請求―の3つの手法で実施。投票率が50%を超えないと開票しないという規定がある。また、条例による住民投票は、国の法律に基づいた投票と違って法的な拘束力はなく、多くの自治体で「首長や議会は、結果を尊重しなければならない」とされる。

11/8(木) 11:40
丹波新聞
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