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全部はれよ

 「これがカルロス・ゴーン氏とグレッグ・ケリー氏の不正に関する内部調査報告書になります。皆様、お目通しください」
 22日午後4時半、横浜市の日産自動車本社の役員会議室に西川広人社長以下、5人の取締役が着席した。備え付
けられた液晶モニターにはビデオ中継で、ルノー出身の2人の取締役の姿が映る。臨時取締役会の冒頭、居並ぶ取締役に担
当者がこう話すと、役員は配られた資料に一斉に目を落とした。
 「あまりにもひどい」。目を通し終えた取締役は自分の目を疑った。会社の資金を不正に使ったり、自身の報酬を
低く有価証券報告書に記載させたりした手口が詳細に記されている。
 ここでルノー出身の2人の取締役が発言を求める。「日本の司法手続きなどももっと詳しく説明されないと、全てを
理解することはできない」
 「最初は2人ともかなり日産に対して疑心暗鬼になっていた」。ある役員は振り返る。ここからおよそ2時間、2
人を中心に会社側からさらに詳細な事実関係の説明が始まった。
 「そういうことですか。承知しました」――。2人は会社側からの詳しい説明に次第に表情を変える。ゴーン元会長
らの不正は否定しきれないと分かると、ようやく納得した。
 西川社長はこれを見て取ると全役員を見回して語りかけた。「一旦20分ほど休憩しましょう。議案の決議はその
後に取ります」。役員陣が同意すると、続けてこう呼びかけた。「日産とルノー、三菱自動車3社のアライアンスを今後も一緒
に維持、発展させていこうじゃありませんか」。画面の先に映る2人の外国人取締役もうなずいた。
 「皆さん、賛成いただけるでしょうか」。午後7時半、取締役会を再開すると、全取締役は一致してゴーン元会長らの
解任議案などに賛成した。ルノーから経営危機の日産を立て直す「再建請負人」として派遣されて19年。カリスマ経営者が
日産から追放された瞬間だった。
 全ての議案を審議し終え、取締役会は開始から3時間半が経過していた。ゴーン元会長が議長をしていた際の取締
役会は毎回、1時間を超えることがなかったという。
 ある日産幹部は言う。「きょうのところはゴーンさんらの解任まで。ルノーとの提携見直しがようやく始まるってこと
だよ」