http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2018120302100013.html
「積雪三〇センチ以上が七十日を超えると、イノシシは越冬できない」−。
こんな通説が独り歩きしているが、専門家は四十年前の調査結果が誤って伝わった「都市伝説」だと否定する。
実際、北陸では今年二月、豪雪に見舞われたが、いまも目撃は相次いでいる。
専門家は「被害を抑止するには、正しい認識が必要だ」と指摘する。

鳥獣対策「正しい知識を」
 「いまだに過去の調査結果が誤って広まっている」。
鳥獣害対策に詳しい農業・食品産業技術総合研究機構の中央農業研究センター(茨城県)の仲谷淳専門員が通説の基となったと指摘するのは、
一九七八年度の環境庁(当時)によるイノシシの分布調査だ。

 調査では西日本を中心に生息が確認されたが、積雪三〇センチ以上が七十日を超えた地域での生息率はわずか3・3%。
報告書には「多雪地帯でイノシシの生息が認められないのは、まさしく自然的分布制限要因としての積雪が主に原因しているため」と記された。

 イノシシの生態に詳しい長岡技術科学大の山本麻希准教授によると、明治、大正期に猟銃が普及し、農家が多数捕獲した。
さらに昭和初期まで頻繁に豚コレラが発生し、北陸や東北地方で絶滅したため、調査時に雪深い地域で生息が確認されなかった。
山本准教授は積雪四メートルを超える新潟県十日町市でイノシシの生息が確認されたことを挙げ、
「たまたま調査時にイノシシがいなかっただけ。豪雪地でも越冬できる。この説は都市伝説」と指摘する。

 その後、北陸などで再び確認されるようになったが、「五六豪雪」と呼ばれる八一(昭和五十六)年、石川県加賀市内で
餓死したイノシシが見つかったこともあり、「積雪が続けば、脚が短いイノシシは餌が食べられずに死ぬ」との説につながったとみられる。

 石川県で平成以降(二〇一六年まで)、積雪三〇センチ超えが七十日以上あったのは、九一、九五、二〇〇六、一一、一二、一五年の
計六回に上る。それでもイノシシは近年、生息域を広げ、個体数も増え続けているのが現状。
捕獲数は〇〇年度と比較すると一六年度は三十倍以上に。農作物が荒らされる被害も歯止めはかからず、被害額は一七年度、
初めて一億円を突破した。
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 仲谷専門員は「誤解をうのみにしたままでは対策が後手に回り、被害を食い止めることはおろか拡大する」と指摘。
山本准教授も「しっかり鳥獣対策を学んだ職員を配置することが大事。鳥獣対策は人づくりなんです」と話す。

「雌の捕獲が必要」
能登視察の専門家
 「雌を捕獲しなければ、増殖に歯止めがかからない」。イノシシの生息調査で今年、石川県能登地方を視察した山本准教授はそう指摘する。

 県内の捕獲は箱わなが主流だが、わなにかかるのは警戒心の低い子どもがほどんど。母親は学習し、わなに近づかなくなる。
イノシシの繁殖力は高いため、「母親を一頭取り逃がすだけで、一年で四、五倍になってしまう」とも。
成獣の雌や加害獣などを識別し、計画的な捕獲の必要性を訴える。

 電気柵の管理が甘い現場もあり、山本准教授は「住民任せでなく、行政がしっかり管理しなければ効果は発揮しない」と強調する。