西日本豪雨からまもなく5カ月。100人を超える死者が出た広島県内では、土砂崩れや河川氾濫の影響で線路があちこちで寸断され、JR西日本では多くの路線が運休を余儀なくされた。各地のバス会社が代替輸送に協力した中、被災者の生活の足として欠かせない役割を果たしたのが奈良交通(奈良市)だ。呉線と山陽線で計約2カ月にわたり、全体の約1割に相当する延べ590台を運行。同社の担当者は「バスは電車ほどの輸送力はないが、災害には強い。公共交通機関の“最後の砦(とりで)”と自負している」と話した。

 平成最悪の豪雨災害に見舞われた広島県では被害が広範囲に及び、JRの複数の路線が運休となった。県内各社とも路線バスの余剰車両はなく、観光バスを投入しても全ての代替輸送はまかなえない。そこで、JR西日本と広島県バス協会は、中四国と関西、九州のバス会社に運転手と車両の派遣を要請した。

 時期は夏休み直前の7月中旬。繁忙期を控え、奈良交通では「長期間派遣するのは難しい」との意見もあった。だが、観光事業部の大谷和也グループ長(47)は「広島とは修学旅行生に利用してもらうなどご縁があり、何とかしなければという思いが強かった。うまくやりくりすれば、業務にも支障は出ないと思った」と決断。観光バス10台と運転手、運行管理者を現地に派遣した。

 同社は広島−広(呉市)間で7月24日から8月20日、三原−白市(しらいち)(東広島市)間で同21日〜9月29日に代替輸送を担い、午前6時ごろ〜午後10時ごろまで1日平均延べ30台を運行した。

 通行止めによる渋滞が慢性的に発生する中、土地勘がない場所で強いられる過酷な勤務。運転手らは土砂によってふさがれた線路、校庭に泥まみれの家電が山積された被災地の惨状を目の当たりにし、「頑張らなあかん」と気持ちを奮い立たせた。広島−広間の代行バスは通勤通学や通院による乗客が多く、常に満席状態だったという。

 三原−白市間で代行バスを運行した京都営業所の中矢昭弘さん(54)は、「遠くからありがとう」などと被災者からねぎらいの言葉をかけられたといい、「地域の役に立てていると実感した。かけがえのない経験ができた」と話す。

 ダイヤや走行ルートに誤りがないよう、運行管理者が現地に常駐。安全で安定した運行の徹底を図るとともに、バスの側面に「全力で応援!! がんばれ広島」とメッセージを書いたステッカーを掲示し、被災者を励まし続けた。「仕事に行くことができ、とても助かりました」「涙が止まりませんでした」−。感謝のメールも多数届いたという。

 広島県バス協会によると、約140の事業所が代替輸送に協力。運行台数は延べ約6千台に上り、奈良交通はこのうち約1割を占めた。運行管理を担当した総務人事部の黒田浩成課長(41)は「被災者の移動手段を確保するのが、バス会社の存在価値。お客さまの足として、きっちり運行しなければという使命感があった」と振り返った。

産経WEST 2018.12.4 07:09
https://www.sankei.com/west/news/181204/wst1812040015-n1.html