2 0 1 5 年4 月1 9 日日本銀行日本
インフレ予想に対する我々の理解は
どこまで進んだか?
Economic Club of Minnesotaにおける講演の邦訳
日本銀行総裁 黒田 東彦
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150420a1.pdf#search=%27%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E7%8E%87+%E3%83%99%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%B3%27
インフレ予想の動学特性をより良く理解するため、人々がどのようにインフレ予想を更新していくか調べる際、「ベイズの定理」や「ベイズ更新」の考え方を適用してみることが有用かもしれません。
ベイジアンの方法論を用いれば、中央銀行が設定したインフレ目標――日本銀行や主要先進国の中央銀行が設定している2%がその好例です――が、人々の間で、どの程度、信認を得ているか、その信認の度合いを調べることができます

日本の経験に照らして申し上げると、「量的・質的金融緩和」の導入以来、様々な予想物価上昇率の指標が、実際の消費者物価(CPI)とともに上昇してきました。
こうしたインフレ予想と実際のインフレの動きの背景で、典型的なベイズ更新が働いてきたと解釈することができます。

平たく言えば、日本銀行による前例の無い2%の「物価安定の目標」に対する強いコミットメントが、その初期の時期において、目標インフレ率に対する信認をある程度高めたということになります。

これをベイズ統計論の用語で言い換えますと、コミットメント
が、長期的なインフレ率に関する「事前の信念(prior beliefs)」の形成に影響を与えたということになります。

その後、実際のCPIインフレ率が持続的に上昇するもとで、人々の長期的なインフレ率に対する信念は、より強まりました。

これは、「長期的なインフレ率は2%である」ということのもっともらしさ――尤度(likelihood)――が高いと認識されてきたことを意味します。
尤度が高まるということは、すなわち、当初の認識と比べれば、日本銀行が2%のインフレ率を達成 する確率が高まったと考えるようになったという意味で、人々が予想を変化させたということにほかなりません。
ベイズ統計論の用語で言えば、こうした変化を「事後の信念(posterior beliefs)」が更新されたと表現します(図表2)。