2019年1月9日 21時33分
産経新聞

 国内の製糖業者が苦境に陥っている。

 健康志向の高まりで国産砂糖を使った菓子などの需要が激減。安価な輸入砂糖原料に課され、サトウキビ農家などへの補助金の原資となる調整金も減少しており、輸入砂糖と国産との価格差も拡大している。業界は急増する甘い物好きの訪日外国人客を標的に需要喚起を図るが、糖質カット食品や人工甘味料が台頭しており、国産砂糖への逆風は強まる一方だ。(西村利也)

 「近年は猛暑でジュースやアイスなどが売れたはずだが、砂糖消費の拡大にはつながっていない」。ある製糖業関係者は肩を落とす。農林水産省の調べによると、平成19年度(砂糖年度19年10月〜20年9月末)に219万トンだった砂糖の総需要量は、29年度に192万トンまで減少。この10年間で1割以上減った。

 需要減少の要因は複数ある。一つは健康志向の高まりや少子高齢化による国産砂糖そのものの需要の減少だ。また、パンやココア製造に使われる加糖調製品など競合する甘味料が増えたことも国産砂糖の需要減少に拍車をかけた。実際、加糖調整品やコーラなどの炭酸飲料に入っている異性化糖(ぶどう糖と果糖の混合液)の需要はこの10年で増加している。

 さらに根深い問題もある。国内の製糖業を保護する財源である調整金が海外産の砂糖原料の輸入減に伴って減り、輸入砂糖との価格差が大きく開いていることだ。国産はブラジルやインドの海外産に比べコスト競争力が弱く、価格差は約5倍ともいわれている。

 その価格差を埋めるため、国は輸入される砂糖原料に対し調整金を徴収し、それを沖縄のサトウキビ農家や製糖業者などへの補助金に充てている。だが、砂糖以外の加糖調整品など他の輸入甘味原料には調整金は課されないため、国産砂糖は他の輸入甘味料に比べるとさらに価格差が開く。

 しかし、昨年12月末に日本など11カ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が発効されたことで、輸入される加糖調製品にも調整金が課されるようになった。これはTPP発効で輸入品の関税率が引き下げられることによる、国内生産者への影響を防ぐことを目的とした対策だ。それでも、業界団体からは「国産を守るにはすべての輸入甘味原料に調整金を課すべきだ」と不満も多い。

 この厳しい状況を打破しようと、農水省が中心となり需要喚起策を活発化させている。「ありが糖運動」と題し、昨年10月には甘い物に関する総合情報発信サイトを開設。業界団体と協力し、訪日客向けに国産砂糖が使われている和菓子などの情報提供を始めた。農水省幹部は「訪日客に和菓子は人気で、お土産用に大量に買う人も多い。今後の輸出の拡大も期待できる」と息巻く。

 ただ、国産砂糖が使われる和菓子は賞味期限が短く、保守的な老舗和菓子店などは輸出には消極的だ。農水省は31年度予算で数十億円を使い、国内のサトウキビ生産設備の自動化などを進め生産性向上を目指すが、先行きは見えない。

http://news.livedoor.com/lite/article_detail/15850409/