アメリカは高速増殖炉の実験をしていて、炉が暴走だったかを起こして、
「われわれはシカゴを失うところだった」などということが言われて、
それで急にトーンダウンした。
高速中性子を使う原子炉は、核が崩壊する場合の遅発中性子の割合が
少ないために、反応の時定数が非常に短くなり、制御動作の一瞬の
遅れが暴走事故を起こして炉が吹き飛んだりするのだ。メカニカルな
動作が入る制御棒の出し入れとかで間に合わなければ終わりになる。

遅発中性子とは、ウランなどの核分裂物質に(低速の)中性子があたると、
核分裂がおきる。その際に原子核が割れるのだが、それと共に余分になった
中性子が2から3個程度放出される。そのとき結局最終的に3個が放出
される場合でも、そのうちの1個程度はしばらくして遅れて放出される。
これは分裂後の核が安定化しようとして余剰の中性子が放出されるまでに
多少の時間的な遅れがあるから。
 核分裂で2個が放出されるのなら核分裂がねずみ算的には増えないが、
3個放出されるのならねずみ算的に増えるという具合に設定されていれば、
その間で増えすぎもせず減りすぎもせずという均衡を保つように中性子を
吸収する制御棒を出し入れしてコントロールできて、その反応の時定数が
ウランに中性子があたって核分裂がおきてから最後の遅発中性子が出る
までの平均時間によって決まる。
ところが、高速炉は高速な中性子を原子核に当てるので、分裂と共に
中性子が出て、後から遅れてやってくる中性子の割合が少ない。それで
制御の余地も時定数も稼げないので、危なっかしいのだ。
(水を使う軽水炉では,中性子は熱拡散的にゆっくりと原子炉の中を
伝わることもまた制御の時定数が稼げることになる)。