2019年01月18日 08:01
https://www.gifu-np.co.jp/news/20190118/20190118-106758.html
https://www.gifu-np.co.jp/news/images/20190118080121-18cc6d28.jpg
糖鎖の化学合成に成功した研究チームの(左から)今村彰宏准教授、石田秀治センター長、田中秀則助教=岐阜市柳戸、岐阜大

 岐阜大応用生物科学部(岐阜市柳戸)を中心とする研究グループが、難病「ギランバレー症候群」の発症メカニズムや治療法の解明につながると考えられている、細胞の表面を覆う分子「糖鎖」の化学合成に世界で初めて成功した。難易度が高い実験を積み重ね、約15年をかけて得た成果で、欧州の化学論文誌「Chemistry A European Journal」に掲載された。中心的な役割を担った今村彰宏准教授(40)、田中秀則助教(36)は「合成できたと分かったときは、これまで関わってきた多くの研究者のことを思い、ほっとした」と話した。

 同症候群は、年間で10万人に1〜2人の割合で発症する疾患。免疫システムに不具合が生じ、手足に力が入らなくなったり、全身にまひが広がったりする。軽い症状のまま快方に向かうこともあるが、命に関わる重症となる場合もある。

 研究グループが化学合成に成功したのは、同症候群を発症する前に感染する菌の一つ「カンピロバクター・ジェジュニ」の糖鎖。筋肉につながる神経細胞の糖鎖と構造が一部同じであるため、免疫システムの不具合が起こる原因とみられている。同菌の表面には糖鎖が微量にしか存在しないため、治療法研究の推進などのため化学合成が切望されていた。

 糖鎖は、糖の分子を鎖のように一つ一つ立体的に結合させて作成する。合成には、さまざまな条件の下で膨大なパターンの実験などを試す必要があり、同学部のさまざまな研究者が連綿と試行錯誤を進めてきた。

 「登山に例えると、9合目まで登ったけど、その先に道がないことが分かり、麓まで戻るようなこともある」と田中助教。今回の糖鎖は、完成まで100以上の工程が必要だった。

 岐阜大は約50年前から糖鎖研究に取り組んでおり、2017年には、より専門的な研究に取り組む「生命の鎖統合研究センター」を開設。世界的にも高い合成ノウハウを持っているとして注目されている。石田秀治センター長(59)は「これまでの研究の積み重ねの成果が実を結んだ。他の難病や疾患に関わる糖鎖の合成に向け、さらに研究を進めていきたい」と話している。