※長すぎるので一部抜粋
>>2以降に分けます

日本の代表的な英字新聞、ジャパンタイムズの新オフィスで、昨年12月3日、同社幹部と十数名の記者らが激しい論争を繰り広げた。対立に火をつけたのは、日韓摩擦の火種となっている「慰安婦」と「徴用工」について、11月30日付の紙面に掲載された「editor’s note」(編集長の説明)だった。

今後、ジャパンタイムズは徴用工を「forced laborers (強制された労働者)」ではなく「戦時中の労働者(wartime laborers)」と表現する。慰安婦については「日本の軍隊に性行為の提供を強制された女性たち(women who were forced to provide sex for Japanese troops)」としてきた説明を変え、「意思に反してそうした者も含め、戦時中の娼館で日本兵に性行為を提供するために働いた女性たち(women who worked in wartime brothels, including those who did so against their will, to provide sex to Japanese soldiers)」との表現にする。

こうした編集上層部の決定に、それまでの同紙のリベラルな論調を是としてきた記者たちは猛反発した。

「反日メディアであることのレッテルをはがしたい。経営陣として『アンチジャパン(反日)タイムズ』ではとても存続できない」と説明する水野博泰・取締役編集主幹に、記者側からは「ジャーナリズムの自殺行為だ」、「ファクト(事実)が問題であって、リアクション(読者らの反応)が問題なのではない」などの批判が噴出した。

安倍晋三政権に批判的だったコラムニストの記事の定期掲載をやめてから、安倍首相との単独会見が実現し、「政府系の広告はドカッと増えている」と編集企画スタッフが発言すると、「それはジャーナリズム的には致命的だ」との声も。翌日に開かれた同社のオーナーである末松弥奈子会長とのミーティングでは、発言の途中で感情的になって泣き出す記者もいるほどだった。

変更の表明から1週間ほどたった12月7日、水野氏は紙面に編集主幹の名で異例の全面社告を掲載した。その中で、同氏は変更によって読者の信頼を損なったことを謝罪したものの、変更自体を撤回する考えは示さなかった。

<部数と広告が低迷、厳しい経営続く> 

日韓が対立を繰り返す慰安婦、徴用工という論争的な問題について、ジャパンタイムズはなぜ長年続けてきた表現を変更したのか。ロイターは同社幹部、社員、関係者、学識経験者ら数十人に取材し、その実情を探った。

同紙は日本初の英字新聞として1897年に発刊された。他の多くの日本のメディアと同様、第2次世界大戦中は政府の戦争遂行に協力する紙面を続けたが、終戦後は日本の責任を反省する社説を掲載、民主的な編集方針にかじを切った。「All the News Without Fear or Favor(恐れず、偏らない報道)」とのスローガンを掲げた同紙の報道姿勢にはリベラルとの評価があり、1998年には同紙の慰安婦記事について、保守系雑誌「諸君!」が「国を売るのかジャパンタイムズ」と題する記事を掲載したこともある。

一方、同紙の経営は厳しい状態が続いている。

<「報道部の雰囲気が変わった」>

編集部門の新しいトップとなった水野氏は次々と新たな指示やメッセージを出し、その一方で記者の間には動揺も広がった。

同氏の就任後間もない2017年8月、東京新聞は、小池百合子東京都知事が慣例を破って関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典に追悼文を送らないと決めたことについて、「排外主義助長の恐れ」などとする批判記事を掲載した。水野氏はこの記事について、記者宛てのメールで「こういうイデオロギー情報戦に安易に乗っからないようにしたい」と注意を促すとともに、「これを世界に伝えたところで、日本にとっても世界にとっても何1つ生産的、建設的、未来志向の結果をもたらさない」、「この件、報じる価値はまったく無い」などとの見解を示した。

それまで使われていた「forced(強制された)」という単語を抜き、「日本の軍隊向けの娼館に従事した女性たち(women who engaged in brothels for the Japanese military)」という表現に変えたいという内容だった。また資料として、過去の同紙、共同通信、AP、ロイターなどの慰安婦関連記事やコラムの1つ1つについて、メモで「ほとんどが韓国側の視点」、「日本をこき下ろしたいだけ」などと批判した。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190125-00000053-reut-kr