進学先や転勤先が決まっているのに、引っ越し業者が見つからない――。
ここ数年、そんな“引っ越し難民”が増加している。さらに、今年は企業の不祥事が原因で、例年以上に多くの難民が発生しそうだという。

全日本トラック協会は、昨年12月14日にHP上でこんな告知をしていた。

〈分散引越にご協力をお願いします〉

例年3月中旬から4月上旬に引っ越しが集中するため、2月や4月下旬の引っ越しを呼び掛けていたのだ。
大手運送業6社の年間引っ越し件数は約240万件で、実に、その3分の1が3月中旬から4月上旬に行われている。都内で運送会社を営む社長が言うには、

「今年は、1月時点で3月末までのスケジュールが埋まってしまいました。例年より依頼が多いのは、ヤマトの問題が原因でしょう」

ドライバーは低賃金、長時間労働

ヤマトとは、ヤマトホールディングス傘下で引っ越し事業を手掛ける「ヤマトホームコンビニエンス」(YHC)を指す。
昨夏、YHCで引っ越し代金の過大請求が明らかになり、2月21日に親会社のヤマトHD社長が引責辞任を表明したばかりだ。運送業界に詳しいアナリストが解説する。

「大手6社でYHCのシェアは1〜2割。問題発覚後に新規引受を停止したため、中小、零細企業の仕事が増加しました。
とはいえ、引っ越しシーズンは彼らも手一杯でYHCが請負っていた件数をすべてこなすのは難しい。それで例年以上に“引っ越し難民”が増えるわけです」

平均以下の年収

超が付くほどの繁忙期を前にYHCが“退場”した一方、賃貸アパート大手のレオパレス21も難民大量発生の原因を作ってしまった。

「レオパレス21の物件で天井の耐火性能に施工不良が発覚し、建築基準法違反の疑いがあるとわかった。
結果、退去の必要がある入居者は最大1万4千人と判明しました」(先のアナリスト)

レオパレス21は危険性の高いアパートに住む7782人に対して“3月末までの退去”を通知したが、

「引っ越し費用はすべてレオパレス21が負担します。ところが、引っ越し業者が見つからず、入居者のほとんどが退去しようにもできない状況なのです」(同)

また、大手運送会社幹部はドライバー不足も“引っ越し難民”を生み出す要因だと指摘する。

「ネット通販の影響で運送個数は増加しています。が、運送会社は6万2600社前後、ドライバーも約80万人と、ここ5年は横ばいの数字で変わらず、需要増に追いついていません。
ドライバーが増えない理由は低賃金。大型免許保持者の平均年収が454万円で、中小型は415万円。サラリーマンの平均年収491万円を下回っていますからね」

トラック協会によると、全産業平均の労働時間が年1781時間なのに対して、大型免許保持のドライバーは2600時間を超えている。全日本トラック協会広報室によれば、

「運送業界は高齢化に直面しています。ドライバーの約70%が40代以上で、5年前から20代以下の比率は1割を切っています。荷主の立場が強くなり、運送費の値下げ競争が起きたことでドライバーの給与が引き下げられたのです」

“引っ越し難民”たちは、寮などに住み急場を凌ぐケースもあるが、ドライバーの待遇を考えればあまり文句も言えない?

「週刊新潮」2019年3月7日号 掲載

http://news.livedoor.com/article/detail/16139816/
2019年3月11日 5時57分 デイリー新潮