http://karapaia.com/archives/52272028.html
 重要な任務を帯びて、4頭のタイリクオオカミ(Canis lupus)がカナダから、アメリカ・ミシガン州にあるアイル・ロイヤル国立公園に降下した。
 
 ヘリコプターで舞い降りたカナダ出身の4頭組のミッションは、スペリオル湖最大の島に生息するヘラジカの群れを監視することだ。
ここでは肉食獣がいないために、ヘラジカの個体数の爆発が問題となっている。

 同時にオオカミたちはもう1つの任務も負っている。それは、島のオオカミの個体数を増やし、「再野生化」することだ。
昨年9月にすでにオオカミのペアが導入されていたが、今回のオス1頭、メス3頭の4人組はそこに新しい仲間として加わることになる。
天然資源省の計画では、今後3、4年で14〜24頭のオオカミを導入することを見込んでいる。

■気候変動の影響でオオカミが激減
 かつてアイル・ロイヤル国立公園は、年に50日間ほど氷の橋で本土と地続きになるのが常だった。
野生のオオカミはこれを渡って、島に渡ることができた。
しかし温暖化の影響で、この氷の橋が現れなくなってしまった。
その結果、1980年には50頭いたオオカミが、2016年にはわずか2頭にまで減ってしまったのである。

 これが島のヘラジカに影響した。
オオカミが減少した一方で、これ幸いとばかりにヘラジカは激増。
エサとなる植物をめぐる争いが激化するようになり、数千頭が飢え死にするという事態まで生じてしまった。

今回のミッションは、こうした状況を改善することが目的なのである。

■意外にも難しいオオカミの適任者選び
 しかし、このミッションをきちんと遂行できるオオカミを探すことは予想以上に難しかった。
「罠にかかってしまうようなオオカミではダメなんです。そうしたオオカミは高齢か幼いか、それか怪我をしていますから」
とプロジェクトの中心人物であるミシガン工科大学のジョン・ブセティッチ氏は話す。

 また派遣される動物へのストレスも考えねばならなかった。オオカミはまったく見知らぬ仲間と一緒に、見知らぬ土地へ送り込まれるのだ。
「オオカミは群れで生きています。イヌが行ったこともない土地に放り込まれるようなものです。
それに初対面の相手にはとにかく警戒する生き物ですし、初めての土地でエサを見つけるのだって大変でしょう。ストレスだらけですよ。」

■オオカミ保護の見直しを進める米政府
 アイル・ロイヤルへのオオカミの再導入が進む一方、米政府は絶滅危惧種法による保護の見直しを行なっている。
報告によると、オオカミは農家に駆除され個体数を減らしたために1970年代に保護リストに登録されたが、
現在、米魚類野生生物局は保護対象から除外することを検討しているという。
ワイオミング州ではすでに除外。五大湖西部でも2011年に一時的に除外され、2014年に再登録された。

魚類野生生物局はこうした対応について「保全政策の成功事例」と主張しているが、「国中のオオカミに死刑宣告をするもの」という批判もある。

■たくましく生きるオオカミたち
 なお、アイル・ロイヤル国立公園のオオカミについては、万事順調なようだ。
「捕獲や島に放って数時間のうちに見せるオオカミたちの適応力の高さには舌を巻きます。すぐに群れの仲間を追い始めるんですからね」
とアイル・ロイヤル国立公園のマーク・ロマンスキさんは話す。

「オスは体重40キロもありますが、ヘラジカを見つけたとき、何をするべきか間違いなく心得ていますよ。」