アジェイ・アグラワル ジョシュア・ガンズ アヴィ・ゴールドファーブ : トロント大学ロットマン経営大学院教授
2019/03/14 5:00
https://toyokeizai.net/articles/-/270409

大手ネット企業が「予測力」の改善に力を入れている。
かつては「まったく使えない」と揶揄されていた「グーグル翻訳」はどんどん精度を上げているほか、
アマゾンは顧客の購入に基づいて、将来的には顧客が注文する前に「欲しがっていることが予測される」商品を配送するサービスを思案している。
AIによる予測精度はどこまで上がっていくのか。『予測マシンの世紀 AIが駆動する新たな経済』を著した
トロント大学経営大学院教授のアジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、アヴィ・ゴールドファーブの3氏が、AIによる「予測」の未来を論じる。

■アマゾンの予測的中率は現在5%程度
[略]アマゾンのAIはあなたが購入したくなりそうなアイテムを予測して、オススメ商品として紹介する。
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私たち筆者のケースでは、購入したくなるものをAIが正確に予測する割合は全体のおよそ5%。
決して悪くない数字だが、20回勧められて1回購入するだけにすぎない。

では、アマゾンのAIが私たちに関する情報をもっとたくさん集め、そのデータを使って予測を改善するところを想像してほしい。
スピーカーのつまみを回して音量を上げるように、AIによる予測の精度を上げるところを思い描いてほしい。

■「買い物から配送」が「配送から買い物」へ変わる
https://toyokeizai.net/articles/-/270409?page=2
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■すでに「予測配送」の特許を取得している
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AIとは予測技術にほかならない。
「人工知能」といっても、知能そのものが実現するわけではないことを強調しておきたい。

いまでも予測は在庫管理や需要予測など、従来のタスクに使われ続けているが、最近では、まったく新しい問題にも予測が応用されるようになった。
物体認識、言語翻訳、創薬など、AIが進歩する以前は、予測がほとんど不可能だった分野が多い。

■画像認識コンテストでは人間を超すほどに
https://toyokeizai.net/articles/-/270409?page=3
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■ついにエラー率は人間の標準値の半分以下に
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アルゴリズムの著しい改善はその後も続き、2015年には、あるチームのエラー率が人間の標準値をはじめて下回った。
2017年になると、参加した38チームの大半が人間の標準値を下回り、優勝チームのエラー率は人間の標準値の半分以下になった。
機械はこのようなタイプの画像を人間よりも上手に確認できるようになったのである。

もうひとつ、近年AIが達成した大きな成果が、言語翻訳だ。グーグルの翻訳サービスの質がいきなり向上した結果、翻訳は魔法のように感じられる。

例えば、アーネスト・ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」は、[略]

■グーグル翻訳はどう訳したのか
ttps://toyokeizai.net/articles/-/270409?page=4
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企業は競うかのように、この魔法のテクノロジーの商業利用に乗り出した。

例えば中国では、アイフライテック(科大訊飛)がディープラーニングを用いた自然言語処理サービスを開発し、利用者はすでに5億人を突破している。
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〓予測コストが大きく下がっている
重要なのは、機械学習(ディープラーニングはそのサブフィールドのひとつ)において予測の質を調整するコストが大きく低下したことだ。
計算能力に従来と同じコストをかけるだけで、以前よりも質の高い翻訳が提供される。従来と同じ質の予測を生み出すコストが、大きく下がったのだ。

現代のAIは、SFに登場する知的機械にはまだ遠くおよばない。
予測するだけでは、『2001年宇宙の旅』のHALや『ターミネーター』のスカイネット、『スター・ウォーズ』のC-3POのような存在は実現しない。

では、現代のAIが予測するだけなら、なぜこれほど大騒ぎされるのだろう。それは、予測は極めて基本的な入力情報だからだ。
あなたは気づいていないかもしれないが、予測はいたるところで行われている。ビジネスも私生活も予測だらけだ。
しかも予測は往々にして、意思決定を支える入力情報として隠されている。予測が改善すれば情報が改善し、ひいては意思決定が改善する。

予測のコストが下がり続ければ、予測が役に立つ活動は増え続け、応用範囲は広がっていく。
そのプロセスのなかで、機械翻訳のように以前は想像もできなかった多くの事柄が実現するのだ。