秋田の海に風車500基?賛否両論 景観、漁業などに不安の声

秋田県の沿岸海域で、7件の大規模な洋上風力発電計画が浮上している。計画通りにすべて進むと、県北の八峰町から県央の由利本荘市の沿岸海域に最大500基以上の風車が並ぶことになる。洋上風力は国が開発を後押ししており、県も沿岸部4カ所を国指定の開発促進区域にしたい考えだ。ただ、一部住民は景観や環境面で反対し、一部漁業者も漁獲への影響を不安視している。【中村聡也】

 ◇賛否両論

 「事業者と共存共栄の輪を作りたい。洋上風車の海中部には魚が集まる効果があると聞いている」。県漁業協同組合で南部地区の代表を務める佐藤正博副組合長(70)は、再生可能エネルギー会社「レノバ」(東京都)が中心の特別目的会社(SPC)が進める由利本荘市沿岸部での洋上風力発電計画に協力姿勢を見せる。一方、同市在住で17歳でサーフィンを始めた工藤仁美さん(39)は「きれいな海を次世代に残したい」と訴える。自然環境に悪影響があるなどとして、計画反対の署名運動を続けている。

 県と風力発電のつながりは強い。陸上に初めて導入されたのは1998年。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、風の強さなどの好条件が追い風となり、2018年3月末現在、発電容量37万934キロワット分、風車210基が設置された。出力は都道府県別では青森県に次いで2番目の規模だ。

 ◇買い取り制度契機

 洋上風力の機運の高まりは14年4月から固定価格買い取り制度(FIT)が設定されたためだ。県は15年に秋田港と能代港内の開発で大手商社の丸紅を事業者に選定。同社など13社はSPCを設立し、秋田港で最大5万5000キロワット分、風車13基、能代港で8万4000キロワット分、20基の設置に向けた調査を進める。設備は海底に基礎を埋める着床式を想定。20年3月までに事業に着手する考えだ。

 ◇候補地は4カ所

 このほか沿岸海域では5計画が進む。着床式などが検討され、発電容量は計最大333万キロワット。早いところで23年ごろから順次稼働を目指しており、実現すれば最大470基が設置される見通し。

 県内で洋上風力の開発計画が進む背景には、国の後押しがある。4月には「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行される。施行後は国が洋上風力の候補地を「促進区域」に指定すると、海域占用期間が延びるなど事業推進の枠組みが整う。

 国は4月15日までに都道府県から候補地の情報を集め、有望区域を選ぶ考え。その後、年内には地元漁業者などが入る協議会などを通じて促進区域を決める方針だ。

 県は有望区域の候補地として▽八峰・能代沖▽能代・三種・男鹿沖▽由利本荘沖▽潟上沖――の4カ所を推す考え。県資源エネルギー産業課は、部品製造などで需要拡大が期待できるといい、「洋上風力を産業振興につなげる」としている。県は経済効果を最大2100億円と試算する。

 ◇県漁協の判断焦点

 県漁協は近く能代地区(能代市)▽若美地区(男鹿市)▽潟上地区(潟上市)▽南部地区(由利本荘市、にかほ市)――の4地区ごとに書面で協議会参加への可否を尋ねる。4地区の組合員は約430人と県漁業の全組合員の3割以上だ。反対が多い地区は、協議会に参加しないという。

 県漁協の加賀谷弘組合長(64)によると、一部では秋田を代表する魚ハタハタが洋上風力の振動音などを警戒して産卵期に近寄らなくなるなど懸念の声があるという。

 県の候補地の対象地区には能代市浅内、八峰町峰浜、三種町八竜に独立の漁協もあるが、県資源エネルギー産業課によると、3者は協議会に参加する意向を示しているという。

 ◇秋田県内で計画される洋上風力発電の概要
(1)事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー
 出力:最大17万6000キロワット
 風車:最大22基
(2)事業者:丸紅など13社の特別目的会社
 出力:最大8万4000キロワット
 風車:最大20基
(3)事業者:大林組
 出力:最大45万5000キロワット
 風車:最大120基
(4)事業者:日本風力開発
 出力:最大150万1000キロワット
 風車:最大158基
(5)事業者:ウェンティ・ジャパンなど3社
 出力:最大50万キロワット
 風車:最大80基
※秋田市沖も含んだ場合
(6)事業者:丸紅など13社の特別目的会社
 出力:最大5万5000キロワット
 風 車:最大13基
(7)事業者レノバなど4社の特別目的会社
 出力:最大70万キロワット
 風車:最大90基

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190322-00000016-mai-bus_all
3/22(金) 8:42配信 YAHOO JAPAN NEWS、毎日新聞